君に聞かせる子守唄 百年後の王国物語
合間 妹子
序話 玄孫
― 王国歴1108年
― サンレオナール王宮魔術塔
「では、先日ガブリエル・テネーブル様が倒れられたのは、やはり黒魔術師として覚醒されたからだと断定してよろしいのでしょうね?」
「ええ、それは確かです。百年に一度の大魔術師の覚醒です。その時に湧きおこった黒雲に、黒雷も何人もが目撃しております」
「それで、その雷の落ちた場所へは……」
「本日も何名か派遣し、目撃者や近隣の住人達に聞き込みを行っております。が、事が事だけに……中々……住人を恐れさせているだけでありまして……」
ここサンレオナール王宮の魔術塔では総裁、副総裁を含む高級魔術師達が集まって連日のように緊急会議を執り行っていた。しかし、彼らが話し合うだけで事態は何も進展していなかった。
そして彼らの言う黒魔術師の覚醒から四日目に大きな動きがあった。早速その翌朝、報告会議が行われている。
「倒れられて以来意識不明だったガブリエル様が昨日四日ぶりに目をお覚ましになりました」
「おお……」
「ご自分が大魔術師として覚醒されたと聞かされるや否や、まだ足元もふらつく状態で自ら『片割れ』を探しに行くとおっしゃり……」
「体調も万全でないのに無理をさせてはいけないでしょうに」
「家族も医師も止めたのです。が、ご本人は今すぐに出掛けさせてくれ、と聞かず感情を高ぶらせたためか周りに黒雲まで出来てしまい……そしてその雲から雷も落ちてですね……規模は小さく絨毯をあちこち焦がしただけでしたが……」
「しょうがなく魔術師数名がお供をして落雷があったであろう付近にお連れしたのです」
「何と言うことだ……」
「馬車を降りられてからガブリエル様はまるで何かに導かれるようにすたすたと迷わず歩んでいかれ、ある一軒の扉を叩かれました。そこは鍛冶職人の一家が住んでおりまして、扉を開けたのは彼の妻だったのですね。鍛冶屋の妻の顔を見た途端にガブリエル様は泣きそうなお顔で微笑み『見つけた、片割れ』とおっしゃいました」
「おお……」
一同は
「鍛冶職人の妻はまだ妊娠の自覚もない初期の状態でして……というよりも妊娠自体確認されておりません」
「ガブリエル様は彼女のお腹に手を当てさせてもらい、笑顔をお見せになって『愛しい片割れよ……早く生まれておいで……』とおっしゃいました」
「では、その女が身籠っていたとして、その胎児に世にも貴重な白魔術が備わっているとしても……」
「ガブリエル様はいまおいくつなのだ? 貴族学院に通っていらっしゃるのだろう?」
「十四だそうです」
今度はその場にいた全員が黙り込んでしまい、お互いの顔を見た。
「皆様も故フォルタン魔術師が残された記録を読まれたことがありますよね。ガブリエル様の祖先、ジャン=クロード・テネーブル様が百年前大魔術師として覚醒されたと同時にこの世に生を受けたビアンカ様は、彼の運命のお相手で生涯の伴侶となられたということですが……」
「しかし今回は……その鍛冶屋の子供が、片割れが成人する頃にはガブリエル様はもう三十を過ぎられていますぞ」
「私たちに出来ることは、王国の発展に大いに貢献されることになるであろう大魔術師のお二人を支え、導いて差し上げるのみだ。今後のお二人の関係がどうなろうともな……」
こうしてテネーブル公爵家の長女、ガブリエル・テネーブルは十四歳にして覚醒し、大魔力を手にしたのだった。それとほぼ同時に彼女の片割れとなる子の存在もガブリエル自身により確認されていた。
***ひとこと***
お待たせしました。王国シリーズ第一作「この世界の何処かに」の主人公ビアンカとクロードの
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