第30話

 脱衣所で千佳に、着ていた普段着……という名の簡易なドレスと、下着を脱がしてもらう。何回かやってもらっている事だけど、人に服を脱がしてもらうのはまだ少し慣れない。


 「ううう……」


 凛歌も恥ずかしそうに顔を赤らめている。



 「……すごいお風呂」


 凛歌が小さな声で感嘆を漏らす。

 浴室に入ると、そこは6畳くらいの広さがある。奥に見えている湯船は大人3人が同時に入れそうな大きさだ。私も初日にここに案内された時は驚いた。この広いお風呂が私専用だなんて。

 勿論、湯船にはお湯がひたひたに張られている。さっき、側仕えたちが運んでいたお湯だ。


 まず、私たちは、扉から入って右側の壁付近に設置されている体を洗い流すスペースで体を洗う。

 ここには、湯船からお湯を運ばなくてもいい様に、体を流す為のお湯が入った水瓶が設置されている。石鹸は勿論、一般家庭では手に入らない高級品だ。体を洗う為のタオルも触り心地が柔らかく、肌を傷つけない様な素材になっている。


 「凛歌お嬢様、こちらにお座りくださいませ」

 「は、はい」


 凛歌が緊張してる?のを横目に見ながら、浴室に設置されている小さなイスに座る。そして各々、側仕えに体と頭を洗ってもらう。髪には整髪剤が付けられているので、しっかりと。


 「お嬢様、水で泡を流すので目を閉じてくださいませ」


 頭を洗い終えると、次は体だ。体を洗ってもらうのは、私は毎日のことだから、少しずつだけど慣れ始めている。これまた初体験の凛歌は終始恥ずかしがっていた。

 体の石鹸の泡も流してもらい、体も洗い終わったので、2人で湯船に入る。奥の方で、側使えたちが気を使ってくれたのか退室していくのが見えた。広い浴室には、大きな湯船に浸かっている私たち2人だけ。お互い、人一人分の間を空けて座っている。



  「なんか不思議な感じがする……」


 私が、目を閉じてくつろいでいると、ふと、凛歌が呟いた。


 「不思議な感じ?」

 「うん。何でかは分からないけど懐かしいっていうか、安心する感じ」


 側使えが居ない為、お互い自然と崩した話した方になる。


 「安心……。でも、昨日までの不安とかが凛歌に会ってからあんまり感じないかも」

 「……双子だからかな?」

 「……双子だからじゃない?」



 お互い疑問形になってしまって、顔を見合わせて笑いあう。

 どうやら私たちは、一緒にいるだけで自然とお互いに安心感を与えることができるみたいだ。


 「馬車から降りた時さ」

 「うん」

 「奏歌がすぐに目に入って、すごく驚いたの。私がいるって」

 「私だって驚いたんだよ。お姉様から私と凛歌は似ていると聞いてはいたけど、まさかここまで似ているなんてね」

 「でも、驚いたのと同時に少し不安が和らいだの」

 「そっか……」



 凛歌が私のことを真っ直ぐ見据える。その顔は心なしか、さっきよりも緊張や不安が和らいでいる様に見えた。



 「改めて、これからよろしくね、奏歌」

 「こちらこそよろしくね、凛歌」

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