第23話

「えっと……お母さん」


「ん?どうしたの奏歌?」



身分の差を無くしたことによってお互い敬語を使わなくて済む。それに、呼び方も。久しぶりに“お母さん”や“奏歌”と呼び合えるのが嬉しい。



「貴族って大変なんだね。まだ1週間も経ってないのに、もう疲れちゃった」


「貴族は細かな作法も沢山あるし、常に側仕えが居て1人になる時間もほとんど無いからね」



昔、お母さんと貴族は羨ましいという話をしたのを思い出した。お金を沢山持っていて何でもできるって。でも実際はそうじゃなかった。一族の一員としての誇りや他者や一般市民からの信頼などを守るために幼い頃から教育を受ける。それは自由とは言えない生活だった。

貴族になった今だから分かる。貴族の生活は快適で楽しいけど、羨ましがられるようなものではないことが。



「前の生活に戻りたい?」


「少しだけそう思ったけど……。でも今の生活も楽しいよ。お姉様やお母様は優しいし、千佳たちも居て」


「そっか。学校にももう行ったんだって?どうだった?」



私は昨日と今日の学校での出来事を話した。高崎を名乗って、姉がいることを言ってしまった時のことも話した。



「そう。綾沙は中等部でも知られているのね」


「うん、そうだよ。代表貴族の中でも作法の美しさはトップクラスだってみんな言ってたよ」


「私なんてそんなに大したことないんだけど……。でも、嬉しいわね」



最初は久しぶりに会った私とお母さんに遠慮していた綾沙様も途中から、話に参加している。



「まさか、その綾沙様がお母さんの娘だったなんてびっくりしました」



そんな話をしていると、お母さんはお母様に呼ばれて退出していった。つまり部屋には私と綾沙様だけ。2人きりになったタイミングで綾沙様が“契り”についての話を切り出した。



「奏歌は契りを結ぶの?」


「はい。まだ結んでいないけど、お姉様が選んでくださった候補の方はいます」



私は綾沙様に小晴様、日和様、若菜様のこと、日替わりで体験させてもらっていることを話した。


話を聞いた綾沙様は少し驚いていた。



「候補とは小晴たちのことでしたのね」


「知り合いなのですか?」


「えぇ。同じクラスなのです。代表貴族同士でもありますよ」



話を聞くと綾沙様は小晴様たちと仲が良く、お姉様を含めた5人で毎日ランチを食べる仲なんだそう。

さらに、綾沙様は成績優秀なので生徒会にもたまに助っ人として参加しているそうだ。

私の周りには凄い人でいっぱいなんだなと改めて実感した。



「そういえば、今日の1限の授業のとき会いませんでしたよね?」



1限にやった作法の授業はお契姉様のクラスごとに受ける。小晴様たちと綾沙様が同じクラスなら今日の朝、茶道室で会っているはずなのだ。



「今日の1限は先生と話をしていて授業に参加していないの」


「そうだったんですね。明日は会えますか?」


「確か明日は授業変更で2限に作法の授業があるのよね?明日は呼び出されていないので、会えると思いますわ」



夢中になって話していると、いつの間にかお母様たちの話し合いも終わっていたようで、綾沙様たちが帰る時間となっていた。


私は二人が帰ってしまうことが急に寂しく思えてきて、玄関までお見送りに行くことにした。


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