第10話

「奏歌お嬢様、奥様から連絡がありました。夕食は18時からだそうです」

「18時から?あと30分くらいしかありませんね」

「はい。ですので、そろそろ準備をお願いします」


千佳ちかに言われて、私は、桂花けいかに髪をとかしてもらっていた。


「奏歌お嬢様、髪型はどうなさいますか?」

「私は貴族がどのような髪型をしているのか、よく知らないのですが、桂花はどの髪型が似合うと思って?」

「そうですね……奏歌お嬢様には、ハーフアップが似合うかと」

「では、ハーフアップでお願いします」

「かしこまりました」


私は、桂花に髪を結ってもらいながら、自己紹介や初対面の人への挨拶の仕方などを覚えていた。


鏡を見てみると、桂花は私の髪型をハーフアップにして、リボンで結んでいた。私はいつも、ポニーテールしか結ばないので、雰囲気が違って見えた。いかにも、お嬢様って感じ。


「桂花、ありがとう」

「奏歌お嬢様、そろそろ行けますか?」

「えぇ、大丈夫です。行きましょう」


千佳に言われて時計を見ると、丁度いい時間になっていた。

千佳と一緒に部屋を出て、廊下を歩いていると、後ろから付いてくる人がいた。


「千佳、あの2人って私の護衛よね?」

「えぇ。そうですが、何かございましたか?」

「屋敷の中を移動するにも護衛が付くのですか?」

「家の中とは言えど、いつ奏歌お嬢様の身に危険が及ぶかはわからないのです」


これからは、家の中でも1人になれる場所はなさそうだな……


「あと、気になっていたのだけど、毎回“奏歌お嬢様”って呼ぶのは大変ではないの?“奏歌”だけでもいいと思うの」

「そんな事はありませんよ。それに、奏歌お嬢様のことを呼び捨てに呼ぶなんて、失礼にも程があります」


別に失礼だなんて思わないけどなぁ。でも、このままだと結局直してくれそうになさそうだし……

あっ!短くしてもらうくらいならいけるかも!


「ねぇ、千佳」

「何でしょうか?」

「呼び捨てが無理なのであれば、“奏歌様”か“お嬢様”とかでもダメなの?」


私が提案すると、千佳は小さく「そんなに嫌なのですか?」と呟き、小さくため息をついた。


「分かりました。では、今後は“お嬢様”と呼ばせていただきます」


結局、千佳は私の押しに負けてくれた。


そんなやりとりをして歩いているうちに、いつのまにか夕食の会場に着いた。

扉の前には、護衛が6人立っていた。千佳が合図を送ると、その内の2人が扉を開けた。

中には、お母様と瑠歌様の他に2人の貴族がいた。


「お嬢様、こちらへどうぞ」


千佳はさっきの約束通り、“お嬢様”と呼んでくれた。千佳の案内で自分の席に着くと、お母様より紹介があった。


「奏歌、まず皆様に挨拶を」


私は千佳に椅子を引いてもらい、立ち上がると、優雅さを意識しながら挨拶をした。


「お初にお目にかかります、高星奏歌と申します。以後、お見知り置きを」

「紹介します。こちらの2人はそれぞれ、藤堂とうどう家と梅園うめぞの家の奥様です」


私の人生初の夕食会のメンバーは御三家の奥様達でした!


奥様達の挨拶を受け、互いの挨拶が終わると、祈りの言葉を唱えてから食事が始まった。

それぞれの側仕えに給仕してもらい食べ始める。


周りを見てみると、私の 食事の作法は周囲とあまり変わらなかった。優雅さでは劣るものの、隣に立って待機している千佳から注意されないことからしても、目立った間違いもしていないみたい。


今思えば、平民なのに食事でカトラリーを使っているのは私の家だけどだったような……


食事が終わると奥様達が食後のティータイムを始めた。

私が、どうしようと戸惑っているとお母様が、


「奏歌と瑠歌はもう下がりなさい。私達は少し話し合いがあるから」


と言った。


「はい、お母様。それでは皆様、失礼します」


瑠歌様が退室の挨拶をしたのを見て、私も急いで真似をし、挨拶をしてから退室した。

廊下に出ると、私を待っていたのか、瑠歌様に呼び止められた。


「奏歌、今から少し時間を頂ける?」


私はこの後、特に予定はなかった。


「はい。大丈夫です」

「私に着いてきて」


私は瑠歌様に着いていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る