第5話
私はお風呂から上がった後、お母さんの部屋に向かった。夕食の時にお風呂の後、部屋に来るように言われていたんだ。
お母さんが私を部屋に呼ぶのは珍しい。多分、中学に入ってからは数えられるほどしか無かったはずだ。
コンコン
「お母さん、入るよ?」
「ええ、どうぞ」
久しぶりに入るお母さんの部屋は、前に入った時から変わっていなかった。
懐かしくて部屋を見渡しているとベッドの上に置いてある服に目が止まった。なぜなら、明らかにお母さんの物ではなく、貴族が着るような服だったからだ。
「お母さん、この服って…」
「それは貴族街に住んでいる私の家族から
「そっか…。でも何で2着もあるの?」
ベッドの上に置いてある服の1つはおとなし目の色を基調としていて、貴族の大人の女性が着る服だった。でも、もう1着は白を基調としていて、どう見ても大人が着る服では無かった。
「もう1着は
えっ⁈瑠歌様がくれたの?こんなに綺麗で可愛い服を?
「帰り際に伝言も預かったわ」
お母さんによると、『これを明日着てね!』だそうだ。
お母さんはこの服を見せるために私を部屋に呼んだようだ。
瑠歌様に貰った服は私が持っていると汚しかねないので、明日までお母さんに預かったもらうことにした。
その後もしばらくお母さんの部屋に居たら、お母さんにもう寝なさいと言われたので、私は部屋を出る前に少し話しておきたい事がある言った。
「奏歌、話しって何?」
私は少し間を置いてから、お風呂で考えた言葉を言った。
「お母さん、今まで大切に育ててくれてありがとうございました。今までもこれからもずっとずっと大好きです!」
私はいつもお母さんに感謝していた。でも、恥ずかしくて感謝の気持ちを伝えることが出来なかったたんだ。今日じゃなくてもいつか言えばいいと思っていた。
いつか言おうと思えていたのは、お母さんと2人で過ごす毎日が当たり前のことで、ずっと続くと思っていたから。
こんなに急にその当たり前が終わるなんて思っていなかったから。
だから今日、今までのありがとうを全部伝えたかったんだ。
「私も奏歌のこと大好きよ」
「私、高星家に行っても頑張れそう」
「そうだね。勉強や作法、挨拶の仕方とかはそんなに苦戦しないと思うよ」
お母さんは何故か自信ありげな表情で言った。
「なんで?」
「奏歌、小さい時から私が教えてきたことを思い出してみて」
お母さんにそう言われて思い返してみると、
「あっ!」
「分かった?」
お母さんが苦戦しないって言った意味に私は気づいた。
私は小さい頃からお母さんに礼儀作法や、勉強、丁寧な挨拶の仕方など、一般家庭では教わることのないようなことを教え込まれてきた。
「小さい頃からお母さんが教えてくれていたことって…」
「そうよ。あなたが貴族にいつ戻ることになってもいいように教えていたの」
「そういう理由だったんだ」
長年私が抱いていた謎が解けた。
そういえば、もう一つ聞いておくことがあったんだった。
「お母さん、学校ってどうなるの?」
貴族になるなら学校も変わるはずだけど…
「生活に関することは奥様から何も聞いていないから分からないんだ。ごめんね」
「分かった。ありがとう」
私は返事をすると、部屋のドアを開けた。
「おやすみ、お母さん」
「おやすみ、奏歌」
自分の部屋に戻った私は、目まぐるしかった1日に疲れていたのかすぐに寝てしまった。
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