第6話
カーテンの隙間から入ってくる朝日の眩しさに私は起こされた。大きく伸びをしてからベッドを降り、カーテンを開けた。空は青く澄み渡っていてとても気持ちのいい朝だ。
服を着替え、途中で洗面所に寄り、顔を洗ってからリビングへ行くとお母さんは既に朝食の用意を終わらせていた。
「おはよう、お母さん」
「おはよう、奏歌。ご飯できてるわよ」
私とお母さんは席に着き、ご飯を食べ始めた。
「「いただきます」」
今朝は昨日の夜とは違い、静かに食事は進んでいった。しばらくしてお母さんが沈黙を破った。
「今日、9時くらいに高星家の迎えが来るそうよ。それまでに昨日見せた服に着替えて、荷物もまとめておいてね」
9時に来るのか……
実を言うと、昨日の夜の段階で荷物の整理は3分の2までしか終わっていない。
少し急げば間に合うよね?
「うん、わかった。お母さんも同じ時間に出発するの?」
「ええ。奏歌と同じ時間に出るわ」
「私たちが家を出たらこの家はどうなるの?」
住民が私たちしかいないこの家は、この後どうなるんだろう?売られたりするのかな?
そんな事を考えながら私はお母さんの言葉を待った。
「この家?ああ、この家はね元々私の実家の使用人の家なの。だから、この家は、その使用人に返すことになると思うわ」
「じゃあ、売ったり壊されたりしないんだ。良かったー」
この家にはたくさんの思い出がある。だから私はこの家が無くならないと知って安心するとともに嬉しく思った。
お母さんとの話も一段落がつき、ふと、時計を見てみるともうすぐで8時になるところだった。そろそろ準備をしないとまずい。
「お母さん、準備してくるねー」
「あっ!服を着るときは、私が着付けをするからね」
「うん。わかった」
私は急いで部屋に戻り、昨日まとめ終わっていなかった分の荷物をまとめた。まとめ終わると、貴族の服に着替えるためにお母さんの部屋に向かった。
トントン
「お母さん、今いい?」
「大丈夫よ」
お母さんの部屋に入ると、お母さんの荷物は部屋の隅にまとめられていた。そのせいか、昨日よりも広く感じた。
「奏歌、こっちに立って」
お母さんに言われた場所に立つと、服を脱ぐようにと言われた。私が下着だけになると、お母さんが私に指示をしながら着付けをしてくれた。
瑠歌様がくれたドレスは平民の私から見るととても豪華だが、お母さんによると社交用ではなく、普段の生活で着る物なんだって。
ドレスのデザインは、ワンピースみたいにシュッとしていて、とても可愛い。色は薄い水色なんだ。
お母さんが私にドレスを着せるその手つきに迷いなど無く、貴族出身だということを改めて実感した。
「奏歌、私からも1つ言っておかないといけない事を思い出したの」
私が鏡できちんと着れているか確認しているとお母さんが話しだした。
「言っておかないといけない事って何?」
「私は貴族に戻ったらもう奏歌の乳母の役割は終わるとって言ったわよね?」
「うん。昨日、瑠歌様も言ってたね」
「まぁ、結局は乳母にしろ、何にしろ奏歌は高星家の娘、私はいち貴族っていう関係なんだけどね…」
お母さんはそこまで言うと一瞬言葉を止めた。
「これから先、私よりも奏歌の方が身分が高くなるの。だから、私はあなたを“奏歌様”と呼ぶし、あなたは私を呼び捨てで呼ぶ関係になるの」
「お母さんを呼び捨てで…」
お母さんを呼び捨てで呼ぶなんて今まで考えたことも無かった。
「わかった。私は、貴族になるんだから今までと変わらないといけない事があるのはわかっていたことだから」
「そうね。今までと違う事があるのは当たり前だから、無理しないでね」
「うん。気をつけるね」
『おはようございます。お迎えに上がりました』
私が返事をした時、玄関のほうから声が聞こえた。
「迎えが来たわね」
「お母さん、私、頑張るから!」
「ええ。頑張ってね。あと、言葉遣いにはくれぐれも気をつけてね」
私はお母さんの部屋から出ると、荷物を取りに自分の部屋へ移動した。一度部屋を見渡してから頭を下げる。
「今までありがとうございました」
そう言ってから部屋を後にした。部屋を出るとお母さんがいたので、一緒に一階へ降りた。
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