第25話


今回から奏歌目線に戻ります



 「はい。実は……凛歌様をお連れしました」

 「……えっ!?」


 男が言った言葉に驚きすぎて、私とお姉様は声を揃えて叫んでしっまた。


 「い、今、凛歌って言いましたか?」

 「凛歌を、連れて来たって言いました?」


 私たちが矢継ぎ早に質問をすると男は少しびっくりしていたが、質問に答えてくれた。


 「先ほども申しました通り、凛歌様をお連れしました。今は馬車の中で待機していただいています」

 「そうですか。すぐに応接室へ案内させます。こちらへどうぞ」


 お姉様の言葉に玄関に居た側使えたちや、下働きたちが一斉に接客の準備をし始めた。


 「奏歌、あなたは私と一緒に来なさい」

 「はい、お姉様」


 私たちが歩き出そうとすると、「1つだけ耳に入れて欲しいことがあります」という男の声がした。

後ろを振り返ると男は凛歌が乗っている馬車の前に立っていた。

そして、馬車の中にいるであろう凛歌の方を見つめて言った。


 「凛歌様のことですが、現在、事情があって極度の男性恐怖症に陥っておられます。もし側近などを付けるのであれば女性にしていただきたく存じます」

 「……わかりました。海老名、手の空いている女性の側使えを呼んで来てちょうだい」


 お姉様は男が言った"事情"という言葉に深くツッコむことはせず、自分の筆頭側使えに指示を出した。それを見ていた私も自分の側使えに指示を出す。


 「桂花、美緒、結亜は、恐らく凛歌の部屋の受け入れ準備の人手が足りていないと思うのでそちらの手伝いに行ってください。知佳は私と一緒に来てください」

 「「かしこまりました」」


 凛歌が帰ってくるのはもう少し後になると予測していた高星家は、凛歌用の部屋や家具類の準備は終わっているが、まだ最終調節や、拭き掃除など細々した仕事が終わっていない。応接室の準備や、凛歌の対応などで屋敷にいる側使えや、下働きが駆り出されている今、人手が余る事はないはずだ。

 私が屋敷に関する指示を出してもいいのかと少し悩んだが、双子の妹のために少しでも出来ることはしてあげようという考えに達し、指示を出すことにした。


 「奏歌、よく気が付いたわね。的確でいい指示だったわよ」


 お姉様はさっきの私のやり取りを見ていたらしく、その指示を褒めてくれた。

 そして、二人で馬車の前まで行くと、お姉様が凛歌を馬車から降ろすようにと指示を出した。


 すると、馬車のドアが開かれ、凛歌が馬車から降りてきた。


 凛歌を見た瞬間、私は驚いた。


 私の記憶の中には凛歌はいない。それでも私が凛歌を見間違えることはなかった。

それほどまでに似ているのだ。顔はもちろん、身長や髪の色まで。

さすが一卵性双生児。知らないはずなのに知っている。

凛歌を見ていると、まるでもう一人の自分を見ているようで不思議な気持ちになる。


 凛歌のことを観察しているとあることに気が付いた。何かに怯えているかのように少しだけだけど、ビクビクしているようなのだ。

お姉様もそれに気が付いたのか、心配そうな表情をしていた。


 「二人とも、付いて来てちょうだい」


 お姉様はそう言うと応接室に向かって歩き出した。




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