笹巻河童祭り ライバル?
左右どちらでも対応出来るように、道の真ん中に怜悧を連れ出した。
山車と逆方向に歩いているおかげで、人波は少しづつ減って来ている。
と。
道の真ん中に立っている男が一人。
今までの2人よりも身長は高くない。
が、分かり易く違う意味でヤバそうだった。
濃い灰色のパーカー。フードの内側に被った黒い帽子のツバが、鳥のくちばしの様。顔は見えない。
人並みの身長の割りに、存在感がある。
道行く人が、男の横を、距離を取って通り過ぎる。
男はうつむき加減で微動だにしない。
右か、それとも左か。
ハムレットの有名な一節が頭をよぎった。
ん?なんか違う。でも、まあいい。
重要なのは、今日のボクの計画が、最終的に上手く行くこと。
さっきは右手のチョコバナナ屋を見たので、今度は左手の揚げモロコシを見ることに決めて、左に寄った。
「チョコバナナも焼きそばもないけど?」
怜悧が呆れたように言う。
「いや、揚げモロコシってすごくない?」
「毎年あるじゃん。ていうか、さっきから何も買ってない」
怜悧が呆れ怒ったように言った。
でも、いい。
声が可愛いから。
「ちゃんと買うから」
そう言って、怜悧を促した。
肩や腕に触れる勇気は、まだない。
ボクらは、道の真ん中に立つ男の横を素早く通り過ぎた。
通り過ぎる瞬間、気のせいか、男の視線が追って来ている気がして、思わず振り返った。
気のせいだった。
が。
遠く通り過ぎた例の長身の2人が、こちらに歩いて来るのが見えた。
2人は別に一緒に歩いている訳じゃないけど、なんだか、独りで祭りに来ている3人の男たちが、実は仲間なんじゃないか、祭りに来ている可愛い女子を狙って連携してるんじゃないか、そんな嫌な予感がした。
「ねえ。買うの?」
怜悧がボクを突いた。
うおう。
変な声が出た。
まさか怜悧から触って来るとは。
予想外だけど、これはこれで有り。
男どものことなんて、どっかに吹き飛んだ。
怜悧は笑顔でもないし、機嫌も良くはなさそうだが、ボクは嬉しかった。
「買う。買います。これなら、怜悧もけだまも食べられるでしょ」
「まあ」
「やったね!良かったなけだま!」
ボクは怜悧に触れない代わりに、けだまの頭を撫でた。
けだまが短い舌を出して、自分の鼻の頭をペロリと舐めた。
愛い奴。
「おじさん!揚げモロ一つ!」
「あいよっ!揚げモロ一つ!おっ!お嬢ちゃん美人だね!美少女だね!ワンコロも可愛いし、1個おまけだ!」
何かの記事で見たが、顔がいいと経済的に得するらしい。
ボクは、それを目の当たりにし、さらに実感した。
怜悧といたら、単純に食費半分で済むのでは?
いや、そういうんじゃない。
それが目的じゃない。
ていうか、まだ、怜悧と祭りに来ただけで、何も達成していない。
ドラクエで言ったら、まだ最初の戦闘もしないで、街の中をうろついて、宿屋とか武器屋の場所を確認しているだけの状態だ。
代金を払い、揚げモロコシを買って、ボクは次のアイテムを手に入れるべく、その場を後にした。
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