河童に纏わるエトセトラ

 土曜日の午前授業の後。

 空はグレイの雲で覆われて、風は、水気を多く含んで、ひんやりしていた。

 多分、降る。

 雀が低空飛行している。

 願わくば、家に帰る前に、一滴でも!

 願いは正しく報われた。 

 ポツン、と。

 鼻の頭に水滴がついた。

 これで決まりだ。

 ボクは、河童祭りへの誘いをスタートした。

 凄いだろ?

 岩舘と赤坂は、ちゃんと見ているだろうか! 

 でも、もし断られるなら、その時は見られていないといい。

 ダサいところは、友達には見せたくない。

 見せられるとしたら、ガチでホレてる女の子にだけだ。

 経験ない?

 明らかに相手が困惑しているのに、食い下がったこと。

 ボクは最悪なことに、「あの雨の日」をネタに、恩を匂わせて、怜悧を河童祭りに誘った。

 最低だろ?

 でも、いいんだ。 

 どんなに無様でも、やらなきゃいけない時はある。

 怜悧は最初、ただただ困り顔で首を左右に傾けていたけど、ついには困惑が根負けに変わった。

「まあ、河童祭りぐらいなら…」

 そう言った怜悧の気が変わらない内に17時に家の前でと約束して、走って家に帰った。

 困惑から根負けの過程には、少なからず、この間の体当たりが功を奏したはずだし、幼馴染という属性強化による攻撃力のアップも2%ぐらいはあったと思う。

 そんなことは、どうでもいい。

 第一関門突破だ。

 第二関門は17時から始まる。

 さんざん悩んで、服を選んだ。

 お小遣いと言う名の貴重な収入は、主にゲームとおやつ、そして赤坂のアイス代と岩舘のパン代に消えているので、大した服がない。

 悩めば悩むほど、訳が分からなくなり始めたから、茉優に任せることにした。

 茉優は、近頃珍しい、なんでも言う事を聞いてくれる妹だ。

 金さえ払えば。

 ボクは熾烈な交渉の末、値切って500円で手を打つと、最上級の努力をするという約束を勝ち取った。

 そんなやり取りの済んだ土曜の午後15時。

 まだ2時間もある。

 落ち着かない。

 ウロウロして、余計な体力を使いたくなかったので、ベットに寝転がった。

 一応、念のため、目覚ましをかけて目を閉じる。

 17時以降のことを、頭の中でシミュレーションしておきたかった。

 大崎川の手前の土手を思い浮かべる。

 橋の正面に出て、左右に屋台が立ち並び、三車線の道路を車進入禁止にして、山車が出る。

 河童に纏わる山車。

 それを横目で見ながら、山車の進行方向と反対方向に歩く。

 つまり、人込みから始まって、余り人気のない所に行く作戦だ。

 川に沿って右側に歩くと、200メートルほどで屋台が途切れ、馬越橋という一車線の橋の辺りに、土手に沿って植えられた木の中でもひときわ大きな木がある。

 その木の下にあるベンチに、川に向かって腰かける。

 川向うには、提灯が程よく並んでいるはず。

 土手を降りた川原には、5体の河童の石像。

 所持金4,200円のボクに考えうる限り、最高にロマンチックなシチュエーションと言わざるを得ない。

 頭の中に、河童の像が浮かぶ。

 そういえば。

 昔、怜悧と、信之おじさん、泰子おばさん、それにウチの両親と茉優とで河童祭りに行ったっけ。

 あの時は、まだ、けだまもいなかったし、怜悧も今より良く笑った。

 なんか、河童に纏わる話を、信之おじさんがしてくれたような…

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