天狗の娘(てんぐのむすめ)
怜悧の血が触れた羽が、紫色に光る。
それは、後光の様な輝きではなく、暗闇の中で燃える炎の様な光り方だった。
紫の炎は、まず羽を覆いつくし、燃え広がる様に怜悧の体を瞬く間に覆い始めた。
ボクが支えている怜悧の肩、腕にも燃え広がる。
「熱っ!…くない」
怜悧の体を這う紫の光に触れた時、一瞬熱さを感じた気がしたが、実際、熱くはなかった。
温度はよく分からないが、なんだか、温かさを感じる炎だった。
「わたし…」
「怜悧!大丈夫か!?しゃべるな!今、ボクがなんとか…」
言葉に詰まる。
何とかって。
どうすんだ?
「ううん…違うの。大丈夫。もう…なんて言うか…なんか…分かった気がする」
怜悧の言っていることの意味が分からない。
無理もない。
直撃を避けたとはいえ、これだけ血が出てる。
脳にダメージがあるのかもしれない。
「怜悧…」
クケケケケ!クケケケケケ!
脳を犯す河童の甲高い鳴き声が、至近で響いた。
奥歯に響き、耳鳴りが残る。
「才蔵君。けだま、しっかり抱いていて。この子、怖がりだから。でも、もう逃げなくていいよ」
「怜悧?」
怜悧はボクの問いかけには答えず、跳ねるように不思議な起き上がり方で体を起こした。
怜悧の体は紫の炎で覆われ、霧の中で浮いて見えた。
霧の中から近づく、2匹の河童に、無防備に歩み寄る。
クケケケケケ!
河童は、明らかに嬉しそうに宙に向かって叫び、両腕を広げ、怜悧に掴み掛かった。
「怜悧!!」
ボクの叫びと同時に、怜悧は地面を蹴った。
「ええっ?!」
声を出さずにいられない。
怜悧の跳躍は、ボクの予想を文字通り、はるかに上回ったのだ。
クケッ?
河童が驚くのも無理はない。
ボクも驚いて一緒に空を見上げた。
怜悧の体は、河童の体を越え、ボクの身長を越え、霧の中に吸い込まれた。
濃い霧のせいで、姿を見失うほどに。
あまりの出来事に、声を失っていると、上空から、紫色が降りてくるのが見えた。
紫の塊は、どんどん大きくなり、怜悧の体を形作った。
紫の炎と一体化した怜悧が、膝を折り曲げたまま降りてきて、手前の河童の顔に、膝蹴りを食らわせた。
ズゴッ。
ダメージを与える音がして、河童が後ろに吹き飛んだ。
クケッー!
2匹目の河童が、混乱したような鳴き声を出し、吹き飛んだ仲間を見た後、すぐに振り返って怜悧に向かって両腕を振り上げた。
怜悧は、今度は跳ねなかった。
左足1本で立つと、右足を折り曲げ、空手の要領でそのまま蹴りを突き出した。
ドン!
鈍い音。
ク!
中途半端な叫びの途中で、河童は後ろに吹き飛んだ。
ボクは唖然として河童が吹き飛んで霧の中に消えるのを見守った後、顔を下ろしてけだまと見つめ合った。
けだまは、ウルウルした目で見返してきた。
それから、ボクとけだまは、紫の炎を纏った、幼馴染の美少女に視線を移した。
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