土手の上の死闘 

 影は最手前の河童に真横から膝蹴りを食らわせたように見えた。

 いや、実際そうだったのだろう。

 河童は腕を中途半端に上げたまま、真横に吹き飛び、影はシャッ、と地面に膝をつくように着地した。

 パラパラッ、と砂が舞った。

 クケケッ!

 先ほどまでの鳴き声よりも短く河童が鳴く。

 その後すぐに、また左から砂混じりの風を感じると、ドガッ、ドガッ、鈍い音が二回して、二体の河童が吹き飛び、代わりに2つの影が空中から舞い降りた。

 クェッ! 

 河童の鳴き声が明らかに短く、そして音が変わった。

 信じられない。 

 いや、何を信じて何を信じないか、そういうレベルを超えて、もう全てに訳が分からなかった。

 河童がいるなら、いても可笑しくない。

 天狗だって。

 いや、御伽噺を信じるなら、居て然るべきなのだ。

 そして、河童が現実であるならば、天狗もまた現実だ。

 目の前に降り立った3つの影は、天使ならぬ天狗だった。

 ボクの認識が追いつく限り。

 河童より、人に近い。 

 だから、大きさ、というより背丈と言った方がいいだろう。

 背丈は別々で、一番最初に河童に膝蹴りを食らわせたやつが一番小さい。

 ボクよりも10センチは低いと思う。

 残りの2体はデカい。

 一番デカいのは、2メートル近いと思われる。

 河童と違い、服を着ている。

 和装だが、所謂浴衣とか、着物とか、そういうんじゃない。

 もっと、なんていうか、戦うのに適したような、修行にでも出るような。

 正確かどうかは分からないけど、山伏の服装って、こんな感じだった気がする。

 紺を基調に、ぼんぼり、帯、ところどころあしらわれた山吹色が、靄の中で水気を帯びて光っている。

 そして、君は、ボクに疑問をぶつける。

 それだけなら、和装の人間じゃないか、と。

 違う。

 違うんだ。

 なぜ、ボクが、その人型の生き物を天狗だと思ったか。

 それは、最後に説明しようと思った二点にある。

 背中に生えた、黒というより濃い紫で、濡れて仄かに光る大きな、大きな羽と、足元に履いた高下駄。

 教えてくれ。

 逆に天狗じゃないとしたら、何と呼ぶのかを。

 これで団扇を持っていたら、完璧だったが、残念と言うか、想像と違い、手に持っていたのは長い棒だった。

 おそらく、錫杖とかいう。

 上部の先端に、輪っかがいくつか付いていた。

「あなたたちは…」

 怜悧が話しかけるのを、天狗の一人が手で制した。

 クケケケケケ!クケケケケケ!クケケケケケ! 

 まさに狂ったように鳴きながら、霧の中から河童が突進してきた。 

「膳棚!月寒!」

「ああ!」

「オッケー」

 ひと際大きな天狗の掛け声とともに、天狗たちは、突進してくる河童に、めいめい打ち掛かった。

 バチッ!ガコン!バチリ!

 肉を叩くような、なにか硬い物を叩くような音がした。

 河童は錫杖の一撃に、グゲゲ、と呻いたが、突進を続け、あるいは、長い両腕を天狗目がけて突き出した。

 天狗たちは、ふわりと宙に浮き、あるものは河童の腕を蹴り、別の者は河童の肩を蹴り、更に宙に飛んだ。

  

 

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