鉄壁の彼女

 最近の話だ。

 高校に入ってまだ1か月ちょいだぜ?

 ワーオ。

 ほんと、世界は驚きに満ちている。

 岩舘と赤坂と別れて、部活何にしようかなあ、怜悧部活入んのかなあ、その線で話しかけてみっかなあ、なんていつもの妄想モードで歩いていたら、見慣れた背中が目に入った。

 後ろ姿も美少女だから、スグ分かる。

 しかも、制服の着こなしが、独特のエロカッコ良さだから、なおさらだ。

 太もも半分見えてるし、まだそんな暑くはないのに、袖をまくって七分にしている。あいつ、暑がりだったっけ。うう、昔の記憶が出てこない。

 今日こそ話しかけるかな、いや、今日は確か山羊座は運勢最悪だから止めておこう。

 そう思いながら、少しでも近づきたくて加速をつけて歩いた。

 と。

 住宅街、突き当りのT字路を、右から男が飛び出して来て、怜悧の前を塞いだ。

 夜道だったら。

 ヒーローになるチャンスだと走ったかもしれない。

 でも残念。

 近くに犬の散歩をしているおじいちゃんや、ママチャリに子供乗っけたまま立ち話しているお母さん達が散見する、つまり、変質者が現れない、丁度いい夕暮れだった。

 そんなものがあれば、だが。

 だから、足取りを遅くしてみた。

 男に見覚えがあった。

 確か、サッカー部のキャプテンだ。

 新入生用の部活動紹介で見た。

 部活動紹介と言えば、茶道部の部長は美人だったなあ。

 あと、生徒会の書記も。

 いや、待て。

 今は怜悧だ。

 このままだとちょっと近づき過ぎるので、電柱に隠れて様子を見る。

 都合のいい感覚で、電柱があって良かった。

 再び、千沢市万歳。

 選挙権あったら、マジで投票してる。誰かに。

 油断するとすぐどっか行きたがる意識を前方に戻す。

 見ると、サッカー部の名もなきキャプテンが頭を下げて両手を差し出している。

 右手にバラ。

 左手になんかの紙。

 予算の都合か、バラは3本だ。

 ウケる。

 しかも、今時手紙って。

 怜悧はキャプテンの右横を素通りしようとしたが、そこはサッカー部。

 回り込んで、怜悧の前に出た。

 怜悧は、背中に背負っていたカバンを掴んでいた手を、カバンごと腰に当て直して、一度仁王立ちになると、今度は左横に回った。

 動きに合わせて、サッカー部が両腕を前に突き出したまま、怜悧に突進する。

 あっ!

 あいつ、ワンチャンおっぱい狙いじゃ…

 心配するボクをよそに、怜悧は最初から決めてたように、妙なステップを踏むと、そのまま一回転して、キャプテンの腰に蹴りを入れた。 

 ボクは見てしまった。 

 ブルー、あえて言おう、青の下着と、そしてそれ以上に印象に残る、怜悧の冷ややかな目つきを。

 次の日昼休みに岩舘と赤坂に話したら、怜悧がなんて言われているか教えてくれた。

 パワーディフェンスの怜悧。

 絶対零度の怜悧。

 難攻不落の怜悧。 

 普通いるか?

 入学早々そんなあだ名で呼ばれる女子。

 だからボクは困っている。

 河童祭りに行きたいのに、メインディッシュのあの娘は、近づいただけで意識を失いそうな冷たい遮断空気を纏っているから。

 あと、鋭い蹴りを繰り出す体捌きも。

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