少年よ、夢を語れし

 中二の時も、中三の時も彼女は欲しかった。

 彼女が欲しい、っていうより、自分とは違う体つきゆえにどうしようもなく興味をそそられる生き物と、教室のベランダや、放課後の渡り廊下で、キャッキャウフフしたかった。

 あわよくば、あわよくば、中学生の内に、手を繋いで夕暮れを帰りたかったし、おはようと言って手をつなぎながら一緒に登校したかった。

 更に言うとだ。

「今週の土曜日、お父さんとお母さん一緒に温泉行くらしいから、遊びに来る?」とか言われてみたかったし、一緒にウイイレやった後、負けた彼女が「アーア!全然勝てなくてつまんない!」とか言ってコントローラーを投げ出して背伸びをした時に見えるおヘソにドキドキしたかった。

 ウイイレじゃなくてもいい。ペルソナでも、あつ森でも、バレットガールズでも何でも。おヘソじゃなくて、鎖骨でもかま…、まあいい。

 夏になって、白シャツ姿の彼女の背中から透けるブラを、ついつい見てしまったのがバレて、「エロ!」とか「変態!」とか罵りながら舌を出して駆けだす彼女のふくらはぎをみながら熱い日差しに目を細めて夏を感じたかった。

 もちろん、夏は浴衣姿が最強であることは、言うまでもない。

 浴衣とほつれ毛の組み合わせは、人類に勇気を与えるものとして、ヒエログリフに書かれていても可笑しくない。

 夏限定の妄想は、どうしたってエロくなりがちだけど、ボクの妄想は夏だけじゃない。健康的な男子なら、分かってくれるよね。

 秋も冬も、語りつくせぬ妄想の在庫は、メガドンキ並みにある。

 だが、妄想は何処まで行っても妄想だ。

 でも、妄想出来ることは、すべて叶う可能性がある、とドラ〇もんが言ってた気がする。

 多分、いや、おそらく、いや、あるいは。それか、パラレルワールドのドラ〇もんか、ボクの知り合いのドラ〇もんが。

 さすがドラ〇もん。

 完全にいいことを言う。

 何十年も愛されるのが分かる。

 そんなボクの心の中のヒーローに励まされ、ボク、森下才蔵は昨日の夜、自問自答の末、決断した。

 あいつ、もとい、羽陽怜悧うようれいりに告、るのは、まだ早い。

 だからまずは、6月の笹巻河童祭りに怜悧を誘う。

 これは、もう、国連レベルの決定事項。

 子供の頃は、さらしに法被で参加して、山車と共に練り歩き、跳ねに跳ねまくっていたけど、小4を境に、自分の持ってるスタンド目線で見たら、ちょっと馬鹿っぽくて辛くなった。

 友達とは、狂ったように跳ねる誰かのお父さんや、おじさんを見て、大人になってその格好でよく恥ずかしくないもんだ、なんて話していたけど。

 高校生ともなると、視点が変わる。

 これを成長、大人に成るって言うんだろう。

 さらしがポイントだ。

 一万ポイント。

 祭り万歳。

 河童万歳。

 千沢市万歳。

 万歳三唱。

 とにかく、ボクは、怜悧を祭りに誘う。

 出来れば怜悧の跳人姿を見たいが、高校生で参加している女子は、まずいない。

 町おこしとして、その辺しっかり取り組んでもらいたいものだが、跳人は主に小学生と25歳オーバーで構成されていて、中間層、つまりボクの興味の対象はすっぽり抜けている。

 なので、今年は祭りの屋台巡りに怜悧を誘おうと思う。

 高校には、可愛い子も沢山いる(2組の堀川さんとか、1年上の八澄さんとか)が、幼馴染、可愛い、美乳と走攻守三拍子揃った怜悧以外、ボクにはもう見えない。

 コンタクトは先週新しくしたから、視力は間違いない。

 つまり、かなりの正論。

 しかし、しかしだよ、全国の童貞諸君、いや、同士よ。

 問題は、正しいものが勝つ訳でも、正しいから成功する訳でもない、そこに帰結する。世界史の森本先生が言ってた。

 噂によると、中二からこっち、怜悧に告った男は、三ケタに上るそうだ。

 マッシュルームカットの岩舘が言ってた。

 岩舘が言う=盛ってる説は、教科書のラクガキに載るぐらい有名な話だが、別に仕入れた赤坂からの情報によると、二ケタは間違いない。 

 赤坂の情報はけっこう正しい。 

 報酬のアイス分の価値はある。

 実際の話、家が近いボクも、10回ほど目撃している。

 学校の屋上で見たことがあるチャラい先輩や、ボクらとは違う、モテコミュニティー爽やか属性に属しているスポーツ万能同級生、生まれたてみたいな顔した年下なのに頼りがいがあるという噂の下級生といった様々なジャンルの繁殖期の獣共を。

 たいてい放課後、時々土日。 

 となると、常識的に考えて、告白のための待ち伏せ以外ありえない。

 中学生or高校生男子+放課後(土日の午後)+お一人様+住宅地+ウロウロ+美少女の家=告白だ。

 こんなん、サルでも分かる。

 だが、安心したまえ、友よ。

 その、容姿に引かれた男どものことごとくを、怜悧は凍てつく波動で退けたのだ。

 完全に。

 全員。

 

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