天狗の娘 問
「ありがとう」
何もかもよく分からなくて、中腰のままのボクに怜悧が手を差し出した。
「えっ?」
白く細い綺麗な指先を見つめる。
紫の炎は、もう消えていた。
「けだま」
「あっ、けだまね」
ボクは腕にしがみついている温もりを、両手で抱えるように持ち直して、怜悧に渡した。
「才蔵君はもういいよ。家に帰りなよ。なんかごめんね。多分、わたしのせいだから」
怜悧がけだまを撫でながら、俯き加減で言った。
「家?ああ、家。帰れる…いや、一緒に行くよ!」
ボクは慌てて言った。
「いや、悪いし。もう帰れるんですよね?」
怜悧がボクに応えず、後ろの3人、三天狗?に聞く。
一番長身の天狗が顔を横に振った。
「まだ…まだ霧が濃い。我らが駆逐した河童は青がっぱ。一番下っ端の河童。六千坊や、大清坊は見当たらない。大方、あなたの家に向かったのだろう。我らもそのつもりだったが、祭りでたまたま見かけたあなたが気になって、ここに残った。河童共ほどの情報は掴んでいなかったから」
「えっ?待って?どういうこと?だいたいなんでわたしを…」
怜悧が困惑したように頭を振る。霧に長時間晒された髪が、重たげに揺れた。
「羽飾りですよ」
甘い顔、甘い声の天狗が言った。
「はね…飾りって…これ?」
怜悧が胸元で揺れる濃い紫の光沢を放つ羽につながるシルバーのチェーンを、摘まんで引き上げた。
「それは大天狗の風切り羽だ。おそらく15年前に行方不明になった、林斎天様の。俺らはそれを探してたんだ」
一番小さい天狗が、声変わりする前の高い声の割りに、どこか高圧的に言った。
「分からない…全然。ねえ、聞きたいことがあるの」
怜悧が顔を上げて長身の天狗に向き直った。
「問いには答える。そしてまた、我らにも問がある。だが、今は時間がない。膳棚、黒蓑から連絡は?」
長身長髪の天狗は、怜悧の顔から目線を外し、甘い顔の天狗に向き直る。
「ないですね。おかしな話です」
甘い顔の天狗は、おどけたように両掌を上にした。
「クロミノ?」
なんとなく呟いたボクに、一番小さい天狗がそんなことも知らないのか、と言わんばかりの口調で言った。
「黒蓑衆は、我ら入羽天狗の一部隊。下級だが、精鋭でもある。そこの女の家に向かわしたんだが、連絡がない」
おそらくリーダーなんだろう、一番長身の天狗が言葉の後を引き継いだ。
「そう。だから急ぐ。あまり良くない状況だ」
ボクと怜悧は顔を見合わせた。
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