2-6. 真直ぐな劣情
『ありがとうございます深見さん! あの気配、すっかり消えてなくなりました!』
軽代の明るい声を聞いた後、俺は通話を切った。
事件の詳細や犯人については聞かないでくれとお願いしたが、そんなことには全く興味がなかったようで、あっさりと了承してくれて助かった。
「はっはっは! 久しぶりの給料だぜ! 今日は美味いもんでも食うかなァ!」
るんるんと小躍りしながら鼻歌を歌い、コーヒーを淹れ、煙草を吸う。ううむ、やはり一仕事終えた後の煙草は美味い。
「……はあ」
俺が上機嫌な一方で、幽子はというとどこか暗い面持ちをしている。馬鹿に明るく馬鹿に元気な馬鹿にしては、珍しいことだ。
「どうしたよ」
「いや、ね。おじさんのことを思うと、なんだかなあって」
幽子は窓際で外を眺めながら、アンニュイな横顔を俺に見せた。窓の外から見える青空の向こうに、まるであのおっさんがいるかのように。
「愛されていたとはいえ、軽代さんは他の男の人と、その……変なことばっかしてたでしょ? 成仏できたとはいえ、ちょっと複雑な気分だったんじゃないかなって」
何を考えているかと思えば、そんなことか。
もう成仏しちまったんだから、考えても意味のないことだというのに。
「案外、嬉しかったかもしれねえぞ?」
「ええ? 何も思わないとかならともかく、嬉しいってことはないでしょ?」
「それがわからんってことは、お前はまだまだガキってこたぁ」
今回は、幽子はよく働いてくれた。
ここはひとつ、大人として上司として、彼女の不安を払拭させてやるとしようじゃないか。
「ほらこれ、見てみろ」
俺はそう言いながら彼女の横に立ち、あるものを手渡した。
眉間に皺を寄せながら俺の手元を覗き込んだ幽子の顔は、みるみるうちに曇っていく。
「……これは?」
「見てわかんねえか? えっちな――」
「えっちなDVDでしょ!? 知ってるよ! おじさんの部屋から持ってきたやつでしょ!? それが何、って聞いてるの!」
いつかしたようなやり取りだが、まあ気のせいだろう。
「タイトル、よく見てみろ」
「……タイトルぅ?」
何も理解していないようなので、俺は手元のDVDをトントンと指差し、幽子に示してみせる。『あまり見たくないけどお前がそう言うなら』と言わんばかりの表情で、幽子はおっかなびっくりDVDの表紙の文字に目を通した。
『今夜、妻が他の男に抱かれます』
『若妻 ~昼の顔、夜の顔~』
『寝取られ若妻12時間スペシャル』
『ドS家庭教師のいけない課外授業』
『女王様の愛の鞭百連発』
「うわあ…………」
そして、ドン引きしてみせた。
どれもこれも、いわゆる『寝取られモノ』か『ドS女モノ』だ。中々に偏った趣味趣向をしていたようだが、自分の妻が理想形そのものと知って、存外おっさんも満足したんじゃなかろうか。
「……ホント、馬鹿と変態は死ななきゃ治んないね」
あのおっさんは、死んでも治ってなかったと思うけどな。
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