第13話 手掛かり
「答えは出たかい?」
ジャックは再び成田共済病院の優吾のいる個室を訪ねていた。
「今日はあの刑事はいないの?」
「ああ。なんでも日本の警察に呼び出しを喰らったらしくて、シュンとしてるんじゃないかな」
「いい気味さ」
優吾は吐き捨てるように言った。
「まあそう言うなよ。ヴァンサンはアレでも君のことを思ってわざわざ日本までやって来たんだ」
「へっ、そりゃどうも」
優吾の態度にジャックは少し腹が立った。
「どうせ君のお母さんだろ? 警察に垂れ込んだのは?」
「知らねえよ!」
優吾はイライラしていた。
「なあ、それでお前はどうしたいんだ? オレに付いて行くのか行かないのか。それだけでも返事が欲しいんだけどな」
「オレも退院したら事情聴取が待っているし」
優吾は何かに怯えているか、または躊躇する理由があるのだな、とジャックは直感した。
「そうこうしているうちに移籍マーケットは閉まるぜ。急かすようで悪いけど、お前さんにばかり関わっている訳にもいかないんだ」
そう言われても優吾は黙っていた。
「このままだと、ガビアータではトップへの昇格はないし、思い切った方がいいと思うぞ? やらない後悔よりやった後悔の方が人生にはプラスだ」
キメ台詞のようにジャックはドヤ顔で言った。
「ソノダもタカハシも、お前の使い方が分からないってさ。ああ、なんて悲劇だ」
大袈裟なジャックに優吾は舌打ちした。
「まあ、オレは午前中にもう一つの案件をほぼまとめて来たから、このままフランスに帰っても手ぶらじゃない。お前の人生だ。お前が決めろ」
「もう少し! もう少し時間をくれよ」
ジャックには交渉テクニックがある。優吾もほぼフランスに渡ることを決心しているのだろう。
しかし、何に引っかかって決断できないのだろうか。
「オレは三日後のフライトで帰る。お前さんのチケットまでは取ってない。FIXのチケットじゃないから変更は効くぜ?」
優吾は何かいいたそうにしているが、なかなか言い出せないように見えた。
それでも、優吾は思い切って話し始めた。
「アイツが! アイツがオレを拘束して勝手にアンタのところになんて行くから……オレは……」
「アイツって、やっぱり相手を見たんだな? 知ってるんだな?」
ジャックはしめた! と思ったが、
「いや知らない! 『アイツ』っていうのは一般的な呼び方を使っただけだよ」
またはぐらかされた。仕方ない。奥の手を使うしかない。
「おい、この写真なんだけどな」
ジャックは国城に断ってiPhoneでその東京ブリッツの選手の集合写真を撮った。それを拡大して優吾に見せた。
すると優吾の顔が硬直し、視点が写真から動かなくなった。
唇は少し震えている。
三列で並んでいる選手の集合写真の中央中段には、優吾に少し似ている選手が仏頂面で写っていた。
ジャックは、その選手を指差して、
「この選手の名前を、ブリッツのミスターファンタジスタに教えてもらったんだけど、ユウゴ、お前は知っているかい?」
優吾の目は宙を泳いでいる。
「いえ、知りません」
ジャックは感心した。
優吾は自らのエゴのためなら、平気でウソをつくのも厭わないからだ。
「なんで、なんでこんな写真……」
「いや、オレがフランスで出迎えた奴に、よーく似てたもんでね」
iPhoneを備え付けのテーブルの上に置き、
「まっ、人違いだな。オレには日本人はみんな同じに見えるよ」
ジャックはそう言いながらチラリと優吾を見やった。
優吾の唇の震えは止まり、ジャックを直視していた。
ジャックは少し優しい顔に戻って、
「連絡、してくれよ。いい返事を待ってる」
と言い残して部屋を出て行った。
優吾はジャックを追っては来なかった。
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