第17話 混乱と拡散
ヘリコプター特有の
現場近くに差し掛かった警視庁航空隊に所属しているA109型 はやぶさ4号であった。出動からわずか4分だった。
はやぶさ4号に与えられたのは、上空からの状況把握及び車両逃走に備えた追跡任務だった。
またあちこちに銃撃を受けたと思われる車両が点在し、倒れている人たちも目視ができる。
機長である野上護警部補は逐一本部へ状況を送っていた。
野上は不審に思った。
銃撃を行ったと思われる犯人たちは全部で9人と報告を受けていたがもう一人が見つからない。
竹橋方面から第一機動隊、通称「近衛の一機」のものと思われる車両が4-5台坂を駆け上がってくるのが見えた。
その刹那だ。
黒い3台の車両の1台から、高速で飛ぶ飛翔体が発せられ、間もなくはやぶさ4号に命中した。
回避行動もとることができなかった。
「おいおい、」
ヘリコプターが現場上空に現れた時には一度は安堵したヴァンサンだったが、ヘリを認めると武装した9人のうち1人がランドクルーザーに戻り、何かを取り出した。
「ヤバい、逃げろ!
野上は叫んだが、防空携帯ミサイルとしてはもっとも命中精度の高いとされるアメリカ製のミサイルは、糸を弾くようにはやぶさ4号に吸い込まれて行った。
はやぶさ4号は、轟音を立ててそのまま皇居の堀に墜落し、そのまま沈んで行った。
おそらく機長の野上を含む搭乗員は死亡したであろう。
第一機動隊の隊員たちがその様子に呆気に取られている間に、テロリスト達はランドクルーザーに再び乗り込み、千鳥ヶ淵交差点の方へ逃走した。
これで上空からの追跡は不可能だ。
警視庁の指令部は渋谷方面の第三及び新宿方面の第八機動隊に出動要請を行なっていた。そこに抜かりはなかった。
しかし、テロリストを乗せたランドクルーザー3台は三宅坂で三方に別れ、内堀通りを銀座方面へ走る車両、新宿方面へ走る車両、国会議事堂前を抜けて新橋方面へ走り抜ける車両に分かれた。
第一、第三、第八それぞれの機動隊がテロリスト車両を確保したころにはいずれも乗り棄てらており、テロリスト達はいつの間にかカムフラージュの戦闘服から平服に着替えて一般人に混じって地下鉄に姿を溶かした後だった。
勿論、防犯カメラはそこかしこに備わっているが、顔にはマスク。
犯人の身元を特定するのに困難な状況は、コロナ禍の招いた事態だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヴァンサン、ジャック、そして優吾は無傷ではあったが、他の被害者と共に保護され現場至近の国家公務員共済組合連合会 九段坂病院へ収容された。
三人が回避行動をとっているときに受けたかすり傷の処置が終わり、警察官より待機するように言われてロビーにいると、北小路誠也が現れた。
「ムッシュ、無事でよかった」
「キタコージ、一体何が起こったんだ?」
三人を労う北小路にヴァンサンは尋ねた。
「細かくはわかりません。車両はロシアに輸出される直前の盗難車だったことが分かっている、そのくらいです」
「おいおい、テロリストを街中に野放しにしちまったって事か」
見る間にヴァンサンの顔は紅くなって行った。
「
北小路もまだ情報不足のようで歯切れが悪い。
「あいつらは自動小銃も携行しているのか?」
「さすがに今は逃走するフェイズです。そんなに目立つものは全部車中に置き去りです。しかし、携帯用ガンくらいは間違いなく保持しているでしょうね」
「狙いは何だったんだ」
「いえ、今のところは分かりません」
ジャックが口を挟む。
「まさかとは思うが、ユウゴは関係あるのか?」
北小路は
「いえ、それも分かりませんが、可能性は否定すべきではないでしょうね」
と答えた。
「すると、このままだとまたユウゴが狙われる可能性もあるという事か」
ヴァンサンがそう言うと、
「いえ、ムッシュ。流石に
「いつのまに、日本はこんなに物騒な国になったんだ」
そうジャックは吐き捨てるように言った。
「あの、今日この件でどのくらいの方が亡くなったんでしょうか」
遠慮がちに優吾が尋ねると北小路は、
「即死が3名、心肺停止でここに担ぎ込まれたのが4名。そのうち2名は既に亡くなられている」
そう言った。
優吾はショックを受け暗い顔をして下を向いてしまった。
北小路は優吾の表情を見ながらも、
「一応、礼を申し上げねば」
北小路はヴァンサンにお辞儀をした。
「素早い通報、感謝しております。しかし少し厄介なことになりそうですよ。ムッシュ」
「どういうことだ? オレはただ単に『友人』のジャックと一緒にいただけだ。そしてジャックもユウゴをビジネスパートナーとして会っていた。たまたまオレはそこにいただけなんだがな」
「ええ、承知しておりますよ」
北小路はこの事態の中で不謹慎にも少し上気して笑っているようにも見えた。
「卯月さんはフランスへ旅立つのでしょう?」
「は、はい。海外移籍は俺の夢なんです。だから今回こんなことがあってもジャックに付いて行こうと。でもきちんと事情聴取にはお伺いするつもりだったんです」
そう優吾は答えた。
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