第23話 友人の妹とアウトレットモールに行く話

「というわけでやってきました、アウトレットモールッ!!」


 翌日、朱莉ちゃんに連れてこられたのは電車で数駅離れたアウトレットモールだった。

 来るのは初めてじゃないが、まだ数度程度――正直これだけ大きく、そして平日の昼間にもかかわらず混み入っている状況にはなんとも恐れ入るというか……。


「なんだかワクワクしません!? この、アウトレットという響きはっ!」


 そして、女の子はショッピングが好きという通説に漏れず、朱莉ちゃんはアウトレットモールの熱気に脳をやられハイになっていた。


「さぁ、折角の初デートですし、ゆっくりと中を見て回りたいところですが……」


 え、今デートって言った?


「目的のスポーツショップに行きましょう。あ、靴屋さんの方がいいんでしょうか?」


 あ……そうだよな。流石に気のせいだろう。

 俺達が今このアウトレットモールに来たのは、先の話の流れの通り――ランニング用のアイテムを揃える為だ。


 なんでも朱莉ちゃん。突発的にランニングへの意欲を出した勢いで、シューズやウェアなどを買い揃えると言い出したのだ。


「あ、先輩。先ほども言いましたが、お金のことは気にしないでくださいね? 私にだって多少なり貯金がありますので」

「いや、それなら――」

「それなら?」

「……何でもない」


 借金の500円がどうなんて言ったって通用するわけがない。いい加減俺だって学ぶ。何度だって学ぶ。

 債務者の方が遠慮するという謎の構図になったが、借金500円はそれほど重いのだ。


 ていうか、500円程度で妹を送り込んでくる昴の徹底っぷり……これ下手に昴から金を借りたら何をさせられるか分かったもんじゃないな。気をつけよう……。


「まぁ、でも足りなかったら兄に借りるとします」

「えっ!!? いや、やめた方がいい、あの昴に借りるのは……!」

「そ、そんな大げさな……」

「だってアイツは500円程度の借金に妹を差し出す鬼畜だぞ!!?」


 と、実際に借金のカタにされた朱莉ちゃんに言う俺。

 とはいえ、朱莉ちゃんもグルという可能性は捨てきれないので、馬鹿正直に指摘するのはそれこそ馬鹿の所業かもしれないが。

 ただ、最大のネックである、”朱莉ちゃんが俺の家にカタとしてやってきたとて、何のメリットがあるのか”という疑問が全く解消されていないという点から、ただ昴の滅茶苦茶に巻き込まれた被害者説もまだ生きている。


 どちらか分からない以上……念のため忠告するに越したことはないだろう。


「た、確かにそうですね! まったく同じ血が流れてると思いたくない兄ですよ、まったくー!!」


 帰ってきた朱莉ちゃんの反応はなんとも微妙だ。

 台詞は昴を非難すものだが、口調は完全に棒読み……いや、動揺したり、愛する兄を悪く言うことに抵抗があるというだけかもしれない。


「あ、でも兄から借りる場合、すぐにという訳にはいかないので……その時は先輩、少しだけお金をお借りしたりするかもですが……いいですか?」

「うん、俺にできるくらいならいいけど」

「ありがとうございますっ! でも、一時的とはいえ、兄の借金が増えてしまうわけですね。ふふっ、そうなると借金のカタである私は一体どんなことをされちゃうんでしょうね……?」

「いや、何もしないよ……」


 元々女の子が借金のカタになるとか500円でもオーバーなのだ。これが1桁や2桁、普通に3桁4桁増えてもとても妥当じゃないだろう。というかお金の問題じゃない。


 が、何か不満だったのか、朱莉ちゃんは少し不機嫌そうに唇を尖らせていた。


「先輩のことだからそう真面目に考えるんだろうなーとは思ってましたけど、少し自信無くします」

「いや、自分の価値を500円って思ってて自信も何も無いんじゃない……?」

「むぅ……それを言われたら何とも言えないですけど……」


 朱莉ちゃんはそう複雑そうに呟いた。

 うん、借金のカタのくだりがどうであれ、やっぱり朱莉ちゃんの価値=500円というのには朱莉ちゃんも納得がいっていないようだ。

 そりゃあそうだ。500円ってアレだからね。一食500円以内に済んだらいいなぁくらいのアレだからね。


「とにかく、早く行きましょうっ! レッツ、ショッピンです!」

「そ、そうだね……?」


 落ちかけたテンションを無理やり戻すように意気込み歩き出す朱莉ちゃん。

 そんな朱莉ちゃんに苦笑しつつ、俺はその後を追うのだった。

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