第13話 友人の妹と連絡先を交換する話
「さ、先輩。早く早くっ」
買い物を終え、家に着くなり早速、朱莉ちゃんが急かしてくる。
当然、出る前に話題になった連絡先の交換ってやつだ。
「朱莉ちゃん、その前に買ってきた物を冷蔵庫に――」
「入れました!」
「早っ!? ていうか、今買い物袋ごと突っ込んでたよね?」
「効率重視です」
そう得意げに胸を張る朱莉ちゃん。そういうズボラな面もあるのか。
「実は先輩、あることに気が付きまして」
「え、何?」
「充電は100パーセントでなくとも途中で電源をつければ連絡先を交換できたのではないかと!」
「なるほど。確かに。気が付かなかった」
そうか、途中で電源をつけてしまえば良かったんだ。
感心して頷くと、何故か朱莉ちゃんは責めるように半目を向けてくる。自分だって気が付かなかったのに……
「でも、買い物はどちらにしろ行きたかったし、順番が前後しただけだよ」
「む……先輩。先輩は女心というものを理解していませんっ」
「え」
「連絡先を交換するということは女子にとってそれなりに、それなりなイベントなんですよっ!」
朱莉ちゃんはぐっと拳を握りしめて力強く熱弁した。
一瞬適当なことを言っていると思ってしまったが、よくよく考えればたしかに、朱莉ちゃんの言っていることは正しいかもしれない。
「そういえば高校の時って、女子は随分連絡先の交換に拘ってた気がするなぁ」
「え、どういうことですか?」
「どういうことって、別にそのままの意味だけど……」
「いえ、先輩の周りの女子がどういう行動をしていたから先輩がそう考えるに至ったかを聞きたいのです」
すっと正座し、やはり責めるように見てくる朱莉ちゃんに、俺は少しばかり動揺をしてしまう。
何かまた失言をしてしまったのだろうか。少し頭を捻るが、やっぱり分からない。
……取りあえず、正直に話すのが吉か。
「そう考えるに至ったきっかけというと……まぁ、ベタだけど、女子から連絡先を聞かれることが多かったからかな」
「うごっ!!?」
「朱莉ちゃん!?」
朱莉ちゃんは顔面パンチを喰らったかのように大きく仰け反り、反動で勢いよく戻ってそのままちゃぶ台に突っ伏す。あれ、デジャブ……?
「ち、ちなみに先輩?」
「な、なに?」
「それで、女子から連絡先を聞かれて、先輩は素直に教えたんですか?」
「まぁ、うん。別に隠すようなことでもなかったし」
ゴンッ!
朱莉ちゃんがちゃぶ台を頭突いた。
「先輩……それは少々不用心かと……」
「え、そうかな」
「そうですっ! 最近の女子はですね、連絡先を仕入れて悪い詐欺グループに高値で売ったり、夜遊びがバレたら〇〇さんのところにいたの~とか言って連絡先を身代わりに差し出す狡猾な生物なんですっ!!」
「え……」
そ、そんな悪巧みが裏で進行して!? ……なんて、流石に嘘だろう。
「先輩、嘘だと思っていますね? でも本当なんですよ。そういう女子は確かに一定数いるのです。いわゆる、美人局(つつもたせ)とかパパ活とか先輩だって聞いたことありますよね」
「まぁ、聞いたことくらいは」
「あとお局様(つぼねさま)とか」
「それは違うと思う。字面は似てるけど」
またもや脱線しかけたことを察して、「とにかく」と強引に話を戻す朱莉ちゃん。力強くちゃぶ台を叩く演出も忘れない。
「先輩が思っているより女子という生き物は危険なんです」
「それ、女子の朱莉ちゃんが言うの?」
「女子だから分かるんです。これはりっちゃんも言ってましたし」
「りっちゃんって、ああ、某ファーストフードでバイトしてる」
「はい。りっちゃんはなんでも知ってるんです」
凄いなりっちゃん。
「りっちゃん曰く、『男は女の身体を狙ってる。女は男の財布を狙ってる。だから男は男、女は女だけで仲睦まじくするべき』とのことですから、先輩も気をつけてください」
あれ? りっちゃん、そっち系じゃない? 考えすぎかな……
「というわけで先輩。これからは連絡先は大事に、特に女性相手には慎重に交換するようにしてくださいね?」
「う、うん。気をつけるよ」
「分かっていただければいいんです。というわけでようやくですが、連絡先を交換しましょう!」
「あ、この流れで?」
「当然です! どれだけ待たされたと思ってるんですか! ちなみに先輩、私はこの地球上で唯一信頼できる女子ですからね? 先輩は全て私に委ねればいいんです」
なんか詐欺師みたいなことを言い始めた。
まぁ、友達の妹を疑おうなんて考えるほど落ちぶれちゃいないけど……俺、りっちゃんとやらに怒られるんじゃないかな。なんとなく。
「さぁ、先輩。私に全てを委ねるのです。先輩にとって女子は私だけ、私にとって男子は先輩だけ。そう、2人は現代に生まれたアダムとイブ――」
「交換しないの?」
「しますっ!!!」
というわけで随分と遠回りをした気がするが、無事連絡先の交換が済んだ。
なんだか途中脱線し過ぎて訳が分からない話になったせいか、どっと疲れが噴き出して来たけれど――
「これでいつでもどこでも話し放題ですね、先輩っ!」
「――そうだね」
連絡先の交換というのがそんなに嬉しかったのか、無邪気に喜んでいる朱莉ちゃんを見ると、俺も自然と笑っていた。
この放っておけないというか、無性に可愛がってやりたくなる感じ――なんとなくだけれど、昴がシスコンになった理由が分かった気がする。
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