第39話 友人の妹と後輩がベッドの上でイチャイチャする話
「あづい……センパイ、さっさと冷房つけてくださいよ……」
部屋に入るなり、みのりは「お邪魔します」も無くそんな要望をぶつけてくる。
なんなの? 自分の家なの? そう疑いたくなるくらい遠慮がない……っていうか、勝手に冷蔵庫開けてるし。
でも、暑いのは俺も同じなので文句を言わずに冷房をつけた。26度っと。
「麦茶もらっていいすか」
「駄目」
「は? センパイ、後輩が汗かいて脱水症状もしくは熱中症で死にかけてるっていうのに、そのまま干乾びろっていうんですかそうですか。あー、だったらもう死んでやりますよ。この部屋で死んでこの部屋事故物件にしてやりますよ」
「うざ……どうぞ、勝手に飲んでくださいよ」
「わーい」
くだらない会話を交わす俺とみのり。
そんな俺達を朱莉ちゃんは呆然と見つめてきていた。
「朱莉ちゃん?」
「な……なんですか今のやり取りは!?」
「なにって……なんか変なところあった?」
強いて言えば、みのりの頭だろうか……そう、グラスに麦茶を注ぎ、ごくごくと飲み干すみのりを見つつ思う。
「なんだか、慣れているというか、遠慮が無いというか……」
「まぁ、それはそうかもね」
改めて指摘されると少し恥ずかしいが、そんなことを言われるのは初めてじゃない。
――お前、桜井とやけに仲が良いよな。
その言葉は、俺にとってはある種、中学時代の名物のようなものだった。
当時から、俺とみのりが仲が良いというよりも、彼女が誰相手でもフランクだったというだけで。
まぁ、俺と一緒の時は基本俺と話していたし、その機会も多かったと思うけれど。
「でも、朱莉ちゃんとも随分仲良さそうじゃない?」
「もちろん。一番の親友ですから!」
にっこりと笑顔を浮かべる朱莉ちゃんに、俺は微笑ましい気分になる。
朱莉ちゃんはすっかり俺の日常にいるのが当たり前になった親しい女の子だし、中学時代と頭についてしまうが、みのりは可愛がった後輩だ。
その2人が仲が良いというのは、なんとも嬉しいものだ。子供の成長を見守る父親ってこういう気分なのだろうか。もちろん、俺はそんな年じゃないけれど。
「あー、生き返った……」
キッチンからダラダラと部屋に入ってきたみのりは、俺達を通過して部屋の隅に畳んである俺の布団に倒れ込んだ。
「――ッッッ!!!」
それを見て、俺より先に朱莉ちゃんが声にならない悲鳴を上げた。
「ちょ……りっちゃん!?」
「んー……なに? あ、朱莉、事後報告だけど布団借りてる」
「それ私のじゃなくて、先輩のだから!!」
「……?」
みのりは朱莉が何を言っているのか分からない、といった様子で首を傾げる。
「センパイはベッドで寝てるんじゃないの。家主だし」
「そ、そうなんだけど、そうじゃないっていうか……」
「今は朱莉ちゃんの布団をベッドに敷いて、俺の布団は床に敷いてるんだよ……ていうか、みのりの寝床どうすっかな……」
しどろもどろになる朱莉ちゃんの代わりに答えつつ、新たに生まれた問題に首を捻らす。
そんな俺、そして朱莉ちゃんをみのりは呆然とした表情で見てきた。
「……マジすか?」
そんなことを呟き、何かを確かめる為なのか俺の布団の臭いを嗅ぐように鼻を近づける。
「おい、嗅ぐなよ女子高生」
「うわ……マジだ。センパイの臭いだ」
「な、なにやってるのりっちゃん!?」
みのりの奇行に叫ぶ朱莉ちゃん。
いや、この状況ならそれは俺の役目だと思うんだけど……まぁ、仮に俺が朱莉ちゃんの立場なら、先輩の前で昴が同じような行動に出たら怒るだろうし、そういうアレなのかもしれない。
「……うん、いや、ごめん」
みのりはそう言いつつ立ち上がり、改めてベッドにダイブした。なんというか、ブレないなぁ。
「んー、やっぱり朱莉はグッドスメルだね。グッスメ」
「ぐぅ……先輩のを嗅がれるよりいいけどぉ……!」
「ほら、朱莉もおいでよ」
「えー……」
不満そうな声を出しつつ、ベッドにのろのろ向かっていく朱莉ちゃん。
そして、射程範囲内まで近づいた瞬間、まるで蛇のようにみのりが朱莉ちゃんの腕を掴み、引っ張る。
「きゃっ!」
可愛らしい悲鳴を上げつつ朱莉ちゃんはベッドに、というかみのりの上に倒れた。
「げふっ。朱莉、重い」
「自分で引っ張っておいて!? ていうか、先輩の前で重いとかやめてよぉ!?」
口では文句を言いつつも、満更では無さそうに見える。
2人はわいわいきゃっきゃっとベッドの上でじゃれ合っていて――いや、これ俺どうすればいいんだ。
「先輩、助けてくださいー!」
「いや、ごめん、俺には無理」
朱莉ちゃんからのヘルプも即座に拒絶し、俺はJK二人がベッドの上で戯れる姿を、動物園にやってきて感覚で、ただただ眺めるのだった。
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