第二十七話 裸エプロン

「すみませんただいまです……」

「「ただいまー」」


 割とすぐ「俺は何をしているのだろう」「ていうかここどこだよ」となった俺は恥ずかしながらも自宅の扉を開ける。時間に換算すれば二時間も外に出ていなかった。


 そんな俺を温かく迎えるのはエプロンを身に纏った二人。

 それだけだと『仕事とその手伝いでもしていたのか?』と思うだけで済んだのだが。


 裸エプロン、だった。


 ゆえに理由も詮索できず、かといって無視するわけにもいかないという地獄みたいな状況に陥ってしまったのだ。帰らなければよかった。


 だけど、視覚的には天国だ。何せ美女と美少女の裸エプロン。これで何も思うな、というほうが酷だろう。


「私たち、考えたの。次は永政くんにどっちがいいか即答してもらうために」


 雪奈さんがたわわに実った胸の果実を揺らしながら俺にずい、と近づく。

 気がつけばじっと見てしまいそうなので、昨日告白したばかりで申し訳ないと思っているので後で謝らなくてはいけないな、などと思いながら目を逸らした。


「それで、わたしが双方の魅力をお兄ちゃんに伝えたら白黒はっきりつくんじゃないかと思ってこの衣装を提案したの!」


 戦犯お前かよ。


 俺のジト目にも気づかず、芙弓は自信満々に胸を張る。

 貧乳気味とはいえ、あるものはある。ぷるんと揺れる胸が限りなく理性を惑わしてきた。


「これで永政くんが大きいのが好きなのか、小さいのが好きなのかハッキリするわね!」

「小さくてもいいよねっ、お兄ちゃん!?」


 ごめん芙弓、お兄ちゃん巨乳派なんだ。


 貧乳も貧乳でよさがあるのは当然分かる。だけどどちらが好きかと言われれば俺は即巨乳と答えるほどなのだが——。


「ね? ……ね?」


 貧乳派と言ってください、といわんばかりの芙弓の視線を前に即答は憚られた。

 それに、もう少し裸エプロン姿を見たいという下心もある。


 そんなこんなで、俺は悩む素振りを見せた。こんなことで真剣に悩んでいたら変態扱いされてもおかしくないのだが、前にいる二人が常軌を逸した行動を取っている最中なので問題はないはず。


 仮に即答してもいい印象は持たないだろうし。あれっ、俺の人望詰むの確定なのでは?


「お兄ちゃん、大きいだけがすべてじゃないよね?」

「あら永政くん。大きいのに越したことはないわよね?」


 雪奈さんと芙弓がそんなことを言いながら胸を強調しだす。理性は目を逸らそうとしているのに本能はこの光景を目に焼き付けようと必死だ。結果本能が勝った。


 これ以上色々なアピールをされても俺の本能が暴走の道を走っていくだけだ。

 そう確信した俺は、決死の覚悟で自らの性癖を口に出す。


「巨乳派、です……」


 その瞬間、雪奈さんはぱぁっと目を輝かせ俺に抱き着く。いつもより柔らかな感触が俺の理性を徹底的に破壊しにかかる。


 朴念仁ではないため即座に離れてほしかったがそれもできないでいると、芙弓の異質なオーラに気がつく。


「ふ、芙弓?」

「お兄ちゃん、分かってないなぁ」


 芙弓の目には確かに狂気と愛情、支配欲が宿っていた。

 俺が命の危険を感じガタガタと震え出したころ、雪奈さんが困ったような笑みを浮かべながら言った。


「でも、永政くんって胸の大きさで彼女を選ぶこととかないから。お姉さんあっちこっちに行っちゃわないか心配だわ」


 雪奈さんが女神に見えた。さすが姐さん尊敬します。

 芙弓にも雪奈さんの言葉が伝わったようで、ひとまず殺気は消滅した。


「そうだね。お兄ちゃんはそんなことで判断しないもんね! 選べって言われたから選んだだけだもんね!」

「そうだ。分かってくれたか妹よ!」

「うん! お兄ちゃん大好きー!」


 ひしっとくっつく芙弓の頭を撫でる。二箇所極端に柔らかいところがあるが気にしたら駄目だ。こいつは妹なのだから。


 ふわふわとした雰囲気が漂うなか、雪奈さんの「勝った……」という声が聞こえたのは気のせいだと思いたい。

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