メイドとしてやってきた従姉が甘々すぎてダメ人間になりそうなのですが。
日向伊澄
プロローグ 従姉と俺の日常
「お姉ちゃんに任せなさい?」
そう言い、ニッコリと笑う姿が印象的な従姉——
従姉弟という関係から幼い頃は頻繁に会っていたのだが、雪奈さんが就学するタイミングを機に会うことがどんどん減っていった。
俺が中学生になる頃には年に三回ほど会うほどになっていて、一抹の寂しさを覚えつつも特に気にすることなく過ごしていたのだが。
「
なぜか俺の専属メイドになっていました。
雪奈さんは幼稚園教諭と保育士免許を取り、それを活用して幼稚園で働き始めたらしいのだが二年で辞職。あの厳しい左京家の両親が雪奈さんの辞職を許すレベルなのだからきっとただならぬ理由があるのだろうけれど、聞こうとは思わない。
そこまでは別にいいと思うのだが、社会復帰への第一歩として俺が高校を卒業するまでの三年間をメイドとして過ごそうと自ら名乗り出たらしい。
それもまだ分かる。分かるが、住み込みで三年間もと聞いたらなぜ社会復帰の第一歩として選んだのか分からなくなるのも普通だろう。
意外と大人数の声とかが苦手だったのだろうか。それとも、人間関係を苦に思ったのだろうか。
「永政くん、ちゃんと勉強しているの?」
そんなことを考えていると、雪奈さんがオカンみたいなことを言い出す。専属メイド——まあ俺の家にはメイドが一人しかいないのだが——はお母さんの役割も果たさなければならないのだろうか。
台所から俺のほうを向き、微笑を浮かべる雪奈さんは幼い頃から何も変わっていないようで、なぜか少し安心する。
「ええ。していますよ」
母親に言われたら不快になるような言葉でも、使用人くらいの距離感ならばさして何も思わない。勉強時間も増えるかもしれないな。
「そっか。偉いわね、永政くん」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
こんなことで褒めてくれる人なんてほとんどいないので、雪奈さんがここに来てくれてよかったと思っている。もちろん、両親と離れることに何も思っていないわけではないが。
雪奈さんが皿を洗ってくれているのだから、俺も何かしようとノートを広げ、シャープペンシルを手に取った。
俺と従姉メイドの物語が、今日も続く。
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