第八話 メイドお姉さんと服を脱ぎましょう
「さ、永政くん。お姉ちゃんが服を脱がしてしんぜよう」
「嘘だろオイ」
一緒に服を脱ぐとは言ったものの、まさか雪奈さんに服を脱がせてもらうことになるとは思っていなかった。
「嘘じゃないわよ。さ、両手を上げて?」
「ちょっと待ってください。俺をいくつだと思っているのですか? 俺五歳児じゃないですよ?」
えらく優し気な、それこそ幼子に対するような声を掛ける雪奈さんに、一応年齢を確認しておく。万に一つくらいは俺を小学生か幼稚園児と同じような存在だと思っているかもしれないからな。その頃頻繁に会っていたこともあって。
「何を言っているのよ、永政くん。あなたは15年9カ月目じゃない」
「なぜパッと何カ月目まで分かるのですか……」
それも合っているし。大事に思われている、ということなのだろうか。
サラッと回答できたことが嬉しかったのだろうか、ドヤ顔と笑顔を二で割ったような顔をしている。中身がとんでもないブラコンだと分かってからも何気ない一ページでも絵になるのだから不思議だ。
「質問はこれでいいわね? 腕上げようか?」
「だからなぜ執拗に俺の服を脱がそうとするのですか!? って、上が無理そうだからってズボンを脱がそうとしないでください! 変態ですか!?」
予告もせずにズボンを攻略しようとしてくる雪奈さんを必死に避ける。いくら何でもメイドの業務にここまでを求めようとは思っていないし、求めたくもない。
「どうして避けるのよー! お姉さん悲しむよー?」
「どうしても何もないですよ! 15歳にもなって従姉に服を脱がしてもらいたくないわ!」
熱が入るあまり敬語も抜けてしまう。さっきから敬語抜けてばっかりだな。
そんな熱い俺の訴えを聞き、雪奈さんは嘆く声を止めて寂しそうな目線を向ける。
「……そっか。そうだよね。私が悪かったわ。ごめんね、いつまでも子ども扱いして」
それは不正行為に等しいぞ、雪奈さん。
思わず抱きしめてあげたくなるような雰囲気を即座に醸し出し、自身が身に着けているシャツのボタンを外してゆく。反省モードでも一緒に風呂は入ろうとするらしい。
だがそんなことはほんの些細で、俺の罪悪感を刺激するには充分な反応だった。これが計算だとしたら魔性の女どころの騒ぎではないのだが。
「す、すみません。俺も熱くなりすぎました。お風呂では雪奈さんの言うこと、だいたい聞くので!」
そもそも前提がおかしいため、俺の言っていることも違和感満載になっているのだが、この場にそれを指摘できる者は誰もいなかった。
「うん、なかなか素直なところあるじゃない」
誰が素直だ。これは説教する必要があるかもしれないと思ったのだが、タイミングが悪かったようで。
ボタンを外し終わり、服に手を掛ける雪奈さんから咄嗟に目を逸らす。
こんな提案をするくらいなのだ、俺に対しての羞恥心がおかしいことになっているのはおおよそ察していたが、まさかこうも大胆に脱がれるとは。
しゅるしゅるという衣擦れの音が聞こえる度に居心地が悪くなる。かなり高度な精神修行なのだろうか。
俺の勘と音を鑑みるに、恐らく雪奈さんはもう脱ぎ終わる頃だろう。
そうなれば当然俺の姿を目にするわけで。そのときに俺がまだ服に手すら掛けていないとなればイジられるのは確実なわけで!
ちらりと雪奈さんを横目で窺い、シャツを脱ぎ始める。
横目で見た雪奈さんは俺の予想通りもう脱ぎ終わる直前で、残るは下着のみとなっていた。
ジロジロと見ていないため詳細までくっきりと把握しているわけではない。しかし、雪奈さんが身につけていた白レース下着は覚えてしまっても仕方がないと言えるのではないのであろうか。
もはやマリアージュともよべる光景の記憶を持て余していると、雪奈さんから声を掛けられた。
「さ、入るわよ……。と言いたいところだったのだけれど、まだなの?」
「す、すみません。先に入っておいてくれませんか?」
先に要求を言っておかねばなあなあにされて結局弄ばれ終了コースになってしまうだろうから断っておく。
だがこれは雪奈さんが付け入るには充分すぎる隙だろう。また何か言われてしまうのか?
「ふぅん? ま、お姉さんがいれば恥ずかしいっていうのは聞いているからね。待っているわ」
どうやら俺の心配は杞憂に終わったらしく、代わりに色っぽい声と投げキッスを貰った。
微かになびく金髪にしばしの間見惚れ、雪奈さんのあとを追うように準備を済ませ風呂場へと入った。
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