第十四話 姉とベッドと俺と。
そのあと、電気を消すのを忘れていたため雪奈さんが一旦電気を消し、常夜灯のみにする。どことなくムーディーになるが、俺はそんなことで動揺しないぞ。
「ねね、永政くん。何か話しましょうよ」
「何かって。そんなことよりも早く寝ましょうよ。それか雪奈さんの部屋に帰ってくださいよ」
再び俺の隣に横たわった雪奈さんが俺に何か話すように誘うが、話題を持っていないうえ、これ以上雪奈さんとこんな状況で話すとロクでもないことが怒りそうだから断る。
それを不服に思ったのだろうか。ケチ、だの言いながら雪奈さんは俺の胸板をそっとなぞる。それと同時に、ふわりと雪奈さんの香りが鼻孔をくすぐる。
バクバクと動揺を主張し始める心臓を無視し、雪奈さんに背を向け、念のため般若心経を唱えておく。
「ねぇ、永政くん」
仏教徒でもないのにこんなときだけごめんなさいと思いながら南無阿弥陀仏、と心の中で唱えていると雪奈さんから声を掛けられた。
さすがに無視するわけにもいかないので「なんですか?」と反応する。
その言葉を聞いた雪奈さんは、俺の肩をトントンと叩き。
「お姉ちゃんとイイコトしない?」
と、煽情的な声を出して俺を誘う。
どういった意図で言っているのか。
半ば見えている答えから目を逸らすため、あえて自分に問いかける。
「あんまり待たされるとチャンスが逃げちゃうよ?」
先ほどと同じく情欲を掻き立てられる声だが、ほんの少し挑発の色が混ざっていたことに俺は気がつく。
本当にここで逃げてしまってもいいのか。本当にこのまま流されてしまってもいいのか。
真逆の問いが同時に混ざる。若干理性のほうが上回っているため、何とか堪えられているが、何かしらのきっかけがあれば流されてしまうかもしれない。
奇跡的なバランスを保っているうちに断っておこう、そう思い俺は口を開く。
「おこと——へあっ!? ち、ちょっと雪奈さん、何しているのですか!?」
「何しているのだと思う?」
雪奈さんが唐突に俺の下腹部へと手を伸ばす。といっても本当に下腹部で、局部ではないのだが。
しかし、局部に近い場所を触られたこともあって俺の本能はマックスである。止めようたって止められないレベルへと達しつつあり。
「雪奈さん、これ以上はマズいです……っ」
それでも何とか堪えようと、手を止めるように訴えたのだったが。
「私はね、永政くんと色んなことしたいと思っているわよ。永政くんはどう?」
言外に『返答次第』というメッセージを含まされていることを察し、俺は即座に思っていないですと返答しようとしたところ、どうも引っかかることに気がつく。
俺も雪奈さんと色々なことをしてみたいのである。年齢制限が掛かるものなのかは定かではないが。それは恐らく、まだ、違うけれど。
様々な考えやセリフが頭をよぎり、消えてゆく。
最終的に俺が口に出した言葉は。
「お、俺も。雪奈さんと色々なことをやってみたいです」
そう言葉に出すと同時に、雪奈さんの手が俺の硬くなっている部分に伸びようと下腹部を這い始める。
俺はそんな雪奈さんにトドメを刺すかのように、ただ、と続けた。雪奈さんの手がピクリと止まる。
「あの、その、なんというか。えっちなことは、ダメです」
空気が止まる。
動き出したその刹那、俺は気づいてしまう。さっき発したセリフがとんでもなく恥ずかしいものだということに。
何だよ、えっちなことはダメですって。完全にヒロインのセリフではないか。今からでももう少しカッコいいセリフに変更できないものか。
頬が熱くなっているのを感じながら、俺は惚けている脳に鞭を打って必死に頭を回転させる。
しかし、いくら経っても求めるものは思い浮かばず、雪奈さんが噴き出してしまう。あと一時間くらいくれたら噴き出されなくて済んだはずなのに畜生。
「あはは、やっぱりかわいいわね。永政くん」
「かわいいと言わないでください」
嬉しいけど、と心の中で付け足す。
こんな態度をされると、果たしてあの行動は本気だったのか疑問にも思ってしまう。変にギクシャクするよりかはマシなのかもしれないが。
「うんうん、お姉さん的にはもう少しの間は童貞を守っておいたほうがいいと思うよ」
「どの口が言っているのですか。あと俺が童貞という証拠がどこにあるのですか。俺は童貞じゃなくて性交渉の体験がないだけですバカにしないでください」
「う、うん。それを童貞っていうのよ……?」
引き気味に思える声を出す雪奈さん。まったく失礼な姉である。
「まったく。とんだバカ姉ですね」
俺が呆れた声を出すと、すかさず雪奈さんがそれに食いついてきた。俺の想定した方向とは違うものだったが。
「待って、今バカ姉って言った? 言ったわよね。ねえ。ねえねえ」
「い、言いましたが」
シリアスな声を急に出されて怯んでしまう。それだから雪奈さんに転がされるのは分かっているのだがなぁ。
「やった、私永政くんのお姉ちゃんになれたわ! 今から祝宴を開始しましょう。お酒持ってきて!」
「今日はもう寝ましょうよ。ま、まだ俺は認めていませんから」
「そんなこと言っちゃって。だったらバカ姉なんて言わないでしょ? かわいいなぁ。このこの」
雪奈さんが俺の背中を指でつつく。妙にくすぐったくて心地よい。
つくづく電気をほぼ消してもらっていてよかったと思う。
なぜなら、今電気がついていたら俺の赤い顔が雪奈さんに見られてしまうから。
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