第十五話 ショッピングの約束
その後少し会話をして一緒に寝たのだが、起きたら雪奈さんの姿はなかった。仕事をしてくれているのだろうか、と思いリビングへと降りる。
「なーがまーさくーんはー、私のことがー好きー」
「何を歌っているのですか」
「ひゃぁっ!? な、永政くん、起きたのね」
予想通り雪奈さんは仕事をしていたようで、妙な歌を歌いながら朝ご飯の支度をしていた。主に歌詞が妙なのだが……。
反射的に昨晩の出来事を思い出し、急に恥ずかしさがこみ上げてくる。一晩経ったら元通り的なシステムって導入されている、よな?
「うふふ、昨日の夜はとっても楽しかったわ」
一旦手を止めてこちらを見つめる雪奈さんを見て、そのシステムが導入されていないことを知る。もっと慎重に動けと言うのだろうか。
雪奈さんは俺をぎゅっと抱きしめて言った。何回身体に触れられても未だに慣れない。それどころか、動揺が増している気さえする。
「かわいい弟を持てて幸せだわ。今からお姉ちゃんが美味しい朝ご飯を作って食べさせてあげるからねっ」
幼子に向けるような、慈愛に満ちた目線を配ってからの笑顔。
俺は堕ちる前に何とかして雪奈さんから距離を取り、疑問点を追及する。
「あの、食べさせてあげるって」
「もちろんそのままの意味よ。お姉ちゃんが弟くんのお口に料理を運んであげるの。ね、いいでしょ?」
「よくないですよ。料理を作ってくれることに感謝はしていますが、さすがにそこまでは求めていませんからね!」
「ええー」
心底不服そうな顔をして頬を膨らませるが、少しは立て直したようで。
「もういいよ、私が勝手に食べさせてあげるから。私を存分に頼るがよい」
「それは依存または介護というのでは? 絶対嫌ですからね」
一応断りを入れ、ソファーでくつろぐ。
今日こそは絶対に踊らされないぞ、と固く誓いながら。
◇◇◇
「はい、永政くん。あーん」
「あー……と見せかけて自力で食べるッ!」
「ああっ」
本当に自分の手で食べさせようとしてくる雪奈さんの手をかわし、何とか自力で完食することに成功した。長い戦いだった。俺はなぜこのようなことで体力を消耗しなければならないのだろうか。
ふと疑問を覚え始めると、先ほどまで悔しがっていた雪奈さんが口を開く。
「過ぎてしまったものは仕方ないわ。それはそうと、今日はどこに行きたい? 私はゲームセンターに行って永政くんとキスしながらプリクラでも撮りたいのだけれど」
「何を言っているのですか。いいから仕事をしてください。俺は動画でも見ておきます」
長年の生活で染み付いたぼっちリズムをいまさら崩すことは難しく、今日はおとなしく動画でも見て時間を潰そうとした俺とは裏腹に、雪奈さんは怒ったように言った。
「もう、今日は天気もいいのだから外に行かないと損よ」
「天気のいい日に見る動画って楽しくないですか? あとゲームセンターって結局は屋内なのですから大差はないかと」
「シャラップ!」
そう叫び、雪奈さんは俺のほうに人差し指をビシッと立てる。もう少し近づいたら口が触れてしまう距離なのですがそれはどう考えているのだろうか。
「それならショッピングでもしましょうよ!」
「いや、それも関係な」
「昼ご飯もあっちで食べましょうよ。じゃ、仕事して来るわね。アディオス!」
アディオスじゃないよ。俺の意見聞けよ。
色々腑に落ちない点はあるものの、ただ動画を見るよりかは雪奈さんと買い物でもしたほうが有意義な一日になるだろう。それに、少し興味もあるし。
心の奥底で雪奈さんとの買い物を楽しみにしながら、午後を待った。
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