第二十話 ストーキング妹が来たよ
こってりと絞られているであろう芙弓だが、いつ釈放されるか分かったものではないので、一旦家に帰ることにした俺たち。
そこから特に何かが起こるわけでもなく平穏に時を過ごしていたのだが、事件は夜、0時頃に起こった。
「えへへ、お兄ちゃん。お昼、なんでわたしから逃げたの? 今夜は逃がさないからね」
ゆらりと、銀髪を月光によって煌めかせながら俺へ寄ってくる。
瞳の紫水晶に光が加わる。
ほんのりと赤くなっている頬。心なしか荒い息。
芙弓のすべてに釘付けになってしまい、部屋の照明すら付けることができなかった。
「逃がさないよ。永遠にわたしだけのものになってよ。ここはふたりだけの愛の城だからね?」
瞳の光が妖し気に変化する。
まるでサキュバスのような雰囲気を纏った芙弓は俺の身体に跨り、脳髄がとろけてしまいそうになるほど甘い声で囁いた。
「ひとつになろう、お兄ちゃん?」
その姿はあまりにも年不相応で。どうしようもなく魅力に満ち溢れていて。
でも、俺の理性は止めろと訴えかけてくる。俺はいったいどうすればよいのだろうか。
迫りくる形のよい唇を前に俺は無力だったらしく、そのまま——。
「あらあら、お姉さんの許可なくずいぶん楽しそうなのね」
流されそうになったとき、ゆったりした白いワンピースを着た冷酷な眼光を芙弓にぶつけている雪奈さんが廊下から声を投げかける。
そのまま雪奈さんは俺の部屋に入って、にっこりと笑う。
「永政くん。お兄ちゃんって呼ばれるのが大好きなのね」
「ちちち、違います。妹キャラよりもお姉さんキャラのほうが……いえ、何でもありません」
ゴゴゴ、と背景に映し出されてもおかしくないほどの怒気を発した雪奈さんを前に言い訳などできなかった。
しようと思ったが、今の俺には性的嗜好を雪奈さんに曝け出すという行動に出ることはできなかったと言えば正しいだろうか。
「芙弓さん。あなた、いまだに夜這いなんていう風習をやっているの? 地元どこ?」
「東京です」
遠回しなようで遠回しではないディスりを受けても、芙弓は堂々としていた。
そんな芙弓に雪奈さんは更に口角を上げて、オーシャンブルーの瞳を月光のもとに曝し。
「そうなのね。野蛮な風習だったら軟禁して調教してあげようと思ったのだけれど、それも必要ないのかしら」
シンプルに雪奈さんが怖いことを言い出した。
目が狩人のそれになっている。芙弓もそんな雪奈さんをじっと睨みつけて。
「そもそも。わたし、お兄ちゃんの妹なの。妹だったらお兄ちゃんの童貞を奪ってもいいし。血も繋がってないから結婚も子どもをつくることもできるの。オバサンは黙っててくれない?」
「オバサンじゃないわよー? 25よー?」
もう雪奈さんはキレる寸前だ。いつもの余裕を持った態度はどうした。
いや、これでも持っているほうか。俺の親が『あ、すみませんね。あとは若い者同士で……』とか言い出すのが異常なだけだ。
「わたし14だから。一歳差だから」
「あらあら~」
「ちょっと待ってください雪奈さん。そのバールのようなもので何をする気なのですか!」
限界なのだろう。バールのようなものを取り出して芙弓に近づこうとした雪奈さんを必死に止める。靡く金色の糸によって美しい死神のようにも思えるが、人間が死神になったらそれは犯罪である。
従姉及び自分に仕えているメイドが幼馴染を殺すなど後味が悪すぎだ。
「いい、永政くん。人間生きていれば狩りに出る必要もあるのよ」
「今はたぶん違いますよ。俺の部屋でバイオレンスなことしないでください」
その言葉に、雪奈さんは何とかバールのようなものを置いてくれた。よかった。
対する芙弓は、雪奈さんにお楽しみを邪魔された挙句説教じみたことや殺人じみたことに怒っているのだろうか。
「もう、さっきから何なの? そもそもわたしとお兄ちゃんの愛の城に入ってきて何様なの?」
「俺と芙弓の愛の城ではないよ? ここは」
一応俺がフォローを入れるも、そこで止まっていればこうなってはいないわけで。
「せっかくイチャイチャできると思ったのに酷いっ!」
そう言い、芙弓は心底悲しそうな顔を浮かべた。
そんな芙弓に雪奈さんは、俺たちの関係を明す。
「私は永政くんの姉です」
そう、雪奈さんは静かな声で言——え?
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