第7話アレクサンダー視点

 思っていた以上に、臭く汚い作業だった。

 最初は引き受けたことを後悔した。

 だが僕にも意地がある。

 やると言った事を途中で放り出すわけにはいかない。

 特に我が家の家臣たちの反対が、僕を意固地にさせたのだと思う。

 家臣にやれないと思われるのは、とても腹立たしいことだ。

 

 だが、それでも、下の世話は臭く汚いと思ってしまう。

 ソフィアの全てを見ても、欲情しないのは以前のままだ。

 全てを手放したソフィアを世話をしているのだから、欲情しないのは普通なのかもしれないが、それでもどこかで欲情したいと思っている自分がある。

 失ったモノを取り戻したいという思いだ。


 ひと月ふた月と世話していると、徐々に愛しさが湧きあがってくる。

 クロエはそれを父性愛だと言っていたが、夫になる僕が父性愛を育てるのはまずいのではないかと言うと、可愛いらしく笑っていた。

 初老の女官を可愛らしくと表現するのはおかしいかもしれないが、本当にそう思ったし、クロエのような年のとりかたができれば幸せだろうと思った。


 僕にとっては、ソフィアを世話をするふた月は決して無駄な時間ではなかったし、僕もソフィアも回復の兆しはなかったが、絆が深まっているような気がしていた。

 だが我が家とウェルズリー侯爵家にとっては、ふた月は長かったようだ。

 隣国が攻勢を強め、両家の分家に寝返り工作を仕掛けているのが発覚したのも、父上とウェルズリー侯爵に決断をさせてしまった。


 そう、両家は新たな政略結婚を準備していたのだ!

 表向きは僕とソフィアは結婚したことにしておく。

 だが僕に性的能力がないので、我が家の分家から数人を選んで、ソフィアを抱かせて妊娠させるというのだ!


 表向きはあくまで僕とソフィアの子供だ。

 当主を継ぐのも僕だ。

 だが、僕の次代のオールトン侯爵家の当主は、僕の子供ではない。

 誰か分からない、分家の誰かの種だ。

 本当の父親が誰か分からない状態にして、本当の父親、分家の影響力を排除しようという父上の考えだ。


 父上が、ソフィアを子を産む道具のように扱うのに腹が立った。

 だが一番腹が立ったのは、その提案を父上ではなくウェルズリー侯爵とイヴリン王妹から提案してきたことだ!

 自分の子供を何だと思っているんだ!

 それでも実の父親と母親か!


 僕は人生で初めて本気で怒った!

 殺意というモノを初めて知った!

 貴族として選ばねばならない道だというのが、全く理解できないわけではない。

 だが理解できるからと言って、納得できるとは限らない。

 絶対に許さない!

 父上やウェルズリー侯爵の思い通りにはさせない。

 いや、全てを主導したというイヴリン王妹に一泡吹かせてくれる!

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