第4話アレクサンダー視点

 こんなことになってしまうなんて!

 全て私が悪いんだ!

 自分の体面を守ろうとして、真実を話さなかった私のせいだ!

 アメリアが不幸な死をとげてしまった時、私の力が及ばず死なせてしまった時、私の心と身体は壊れてしまったのだ。


 最初は政略結婚など嫌だった。

 本当に愛した人と結婚したかった。

 正室は政略結婚の相手を迎えて跡継ぎだけを設け、本当に愛する人は側室や妾にする貴族の風習が、反吐がでるほど嫌だった。

 私が手本を示して、愛する人とだけ結婚するようにしようと考えていた。


 私は幼かったのだ。

 隣国に度々攻め込まれ、家を保つため家臣領民を護るため、どうしてもウェルズリー侯爵の手助けが必要だと痛感した時、政略結婚の本当に意味が分かった。

 だから飲み込んだ。

 政略結婚が貴族には必要なのだと、苦い思いで飲み込んだ。


 だが幸いにして、ウェルズリー侯爵家のアメリア嬢を愛することができた。

 いや、正確に言おう、一目惚れした!

 この人は運命の人だと思った。

 絶対に他の誰にも渡したくないと思った。

 ウェルズリー侯爵家の一族一門であろうと、家臣や召使いであろうと、男が近づき話しかけるだけで、怒りに我を忘れそうになった。


 自分にそんな嫉妬心や執着心があるのを、あの時に初めて知った。

 名門貴族の跡取りてしての体面が、私に怒りを口にすることを押し止めた。

 もう一つ、ソフィアの事があった。

 ウェルズリー侯爵家の直系であるにもかかわらず、見た目が平民のようだからというだけで、両親にも一族一門にも、いや、家臣や召使いにさえ虐待されていた。


 そんな不幸な子を見捨てることなどできなかった。

 私の力の及ぶ限り助けてあげたかった。

 いや、それは言い訳だな。

 私の望みは、一分一秒でも長くアメリア嬢の側にいる事だった。

 あらゆる努力をして、ウェルズリー城に通う時間を創り出した。


 そうなると、ソフィアの受けている虐待を眼にしてしまう。

 見て見ぬ振りなどできないが、ウェルズリー侯爵や王妹の方針に口出しする事などできない。

 私にできたのは、家臣や召使いを脅す事くらいだった。


 だがそれが、私に幸いした。

 家臣や召使いが極度に私を畏れるようになったのだ。

 そのお陰で、男性の家臣や召使いはアメリア嬢に近づかなくなった。

 だがそれが、アメリア嬢を死なせる遠因になってしまったのかもしれない。

 力ある男がアメリア嬢の護衛についていれば、アメリア嬢を死なせる事などなかったかもしれない。


 その悔恨が、私の身体を不能にしたのかもしれない。

 純粋にアメリア嬢を失った事が原因なのかもしれない。

 どちらにしても、私は女性を愛することができなくなってしまった。

 国一番の踊り子や売春婦を城に呼んで、何度も試したが駄目だった。

 医師や薬師、聖魔法の使い手まで呼んで治療してもらったが、駄目だった。

 見栄を張らず、その事をソフィアに伝えていれば、ソフィアの心を壊さずに済んだのに……

 

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