第3話

「ソフィアお姉様、魔法の勉強は進んでおられますか?」


「ええ、だいじょうぶよ。

 アレクサンダー様とアメリアのお陰で、教師の方々もよく教えてくださるようになったので、信じられないくらい上達しています」


「それはよかったですわ。

 アレクサンダー様がこの屋敷に来られない時の事は、私がお姉様を護るようにアレクサンダー様から申しつかっていますの。

 使用人たちが失礼な事を言ったりやったりした時は、教えてくださいませ」


 アメリアが何の屈託もなく話しかけてくれます。

 天真爛漫と言う言葉がピッタリと当てはまる子なのです。

 貴族のいい所だけを集めて純粋培養した子なのです。

 父上や母上、一族一門や側近の私に対する悪口など全く相手せず、愛するアレクサンダー様の言葉をそのまま受け取り、姉の私を大切にしてくれるのです。

 護ろうとしてくれるのです。


 嬉しさと妬みで気が狂わんばかりです。

 もし、アレクサンダー様がおられなければ、私は妹のアメリアにすがりつき依存していたと思います。

 アメリアだけを愛し、アメリアのために生きていたでしょう。


 でも、アレクサンダー様が私の全てなのです。

 アメリアが私を大切にしてくれるのもアレクサンダー様の言葉があってこそです。

 アレクサンダー様がおられなければ、アメリアも母上や父上のように、いいえ、アレクサンダー様以外のこの世の全ての人間のように、私を忌み嫌い傷つけていた事でしょう。


 だからと言ってアメリアが嫌いなわけではありません。

 憎んでいる訳でもありません。

 心から感謝し愛しています。

 でも、それでも、心の奥底で妬ましいのです。

 狂おしいほど羨ましいのです。

 これで憎み怨み増悪できればまだ楽なのに、恩を感じ愛してもいるのです。

 

 そんな自分が嫌になります。

 自分の汚さ醜さに恥ずかしくなってしまいます。

 こんな本性をアレクサンダー様に知られたくないと思っています。

 知られてしまったら、アレクサンダー様に嫌われてしまうかもしれない、見捨てられるかもしれないと思い、血が凍り付くような恐怖を覚えるのです。


 私は自分の汚い所、醜い所を必死で隠しました。

 私は、恐れ憎んでいた母上や父上はもちろん、一族一門や使用人たちにたいしても、優雅な貴族として振る舞うようにしました。

 私を庇って下さっているアレクサンダー様の汚点、疵にならないように、誰にも、そう、アメリアにも負けない、貴族令嬢の中の貴族令嬢になれるように、寝食を忘れて努力しました。

 平民のような黒髪黒瞳以外は……


「よくがんばっておられるのですね、ソフィア姉さん。

 僕もソフィア姉さんに負けないように頑張ります」


 ああ、この言葉を聞きたくて、アレクサンダー様の慈愛に満ちた目が少しでも私の方に向くのなら、どんな労苦も苦痛も厭いません。

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