第9話

「学院長!

 それは、人から神々の加護を奪おうとしている者がいるという事ですか?

 人を滅ぼそうとする者がいるという事ですか?!」


「恐らくその通りです」


「ではなぜその事を広く知らせないのですか?!」


「皇帝陛下や国王陛下にはお知らせしていますよ。

 ですが無視されています。

 ですがそれも仕方ないかもしれません。

 神々の加護が失われているというのです。

 民がパニックを起こし、反乱に発展する可能性があります。

 その機会に乗じて、謀叛を起こす貴族が現れるかもしれません。

 隣国に攻め込む愚かな王や、野心的な王が現れるかもしれません。

 各国の皇帝や王も、情報を広める事も、動くこともできないのかもしれません」


 衝撃的な話です。

 ウィリアム王太子殿下も真剣な顔で考えられています。

 どうなされる心算でしょうか?

 普通なら、皇帝や王のやり方にならわれるでしょうね。

 その時、私はどうなるのでしょうか?

 口封じに殺されるのでしょうか?


「学院長。

 証拠になるモノは出してもらえるか?」


「ソフィア様が使徒という証拠でございますか?

 それが記された文献を写本していただくことは可能ですが」


「それも欲しいが、周りの国や有力貴族の反発と誘拐暗殺が怖い。

 古代魔法時代には、黒髪黒瞳に魔力があるのが普通だったという文献が欲しい。

 そのような文献はないだろうか?

 学院長もソフィアが殺されるような事態は避けたいだろう?」


「そうですな。

 それは大問題ですな。

 ふむ。

 写本はこちらで全生徒を使ってやらせます」


「ですが、殿下はどうしてくださるのですか?」


「ソフィアと結婚します。

 父王陛下が全てを知っているのなら話は早い。

 今迄の知って知らないフリをしていたことは許し難いが、世界の未来より国の事を優先する気持ちは理解できる」


「ああ、勘違いしてくださるな。

 皇帝陛下や国王陛下にお話ししていたのは、人を滅ぼそうとしている者がいる事だけで、黒髪黒瞳の具体例は伝えていません。

 そこまでの話に達していなかったのです」


 ええええええええええええ!

 私が王太子殿下と結婚?!

 私の気持ちはどうなるのですか?

 何の相談もなしに結婚させられるなんて、一度で十分です。

 もうあんな思いは二度としたくありません。

 王太子殿下も身勝手過ぎます!


「嫌です!

 絶対に嫌です!

 アナンデール王国など滅べばいいのです!

 人間など滅んでしまえばいいのです!

 私は王家にも王国にも人間にも恨みしかありません。

 私を虐め虐待し続けた王家や王国や人間のために働く気などありません。

 絶対に協力しません。

 政略結婚など真っ平ごめんです!」

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