第10話

「本気で言っているのか?

 そんな話が通ると本気で思っているのか?

 だとしたらお前に次期当主の座は与えられん。

 そんな甘い考えでは、オールトン侯爵家を護っていくことなど不可能だ!」


「そんな事はありません。

 王家もウェルズリー侯爵も認めるはずです。

 我が家の分家も認めるしかないでしょう」


 アレクサンダー様と私は、全面的にクロエの助言に従う事にしました。

 それほど的確の助言だったのです。

 私にとっては、アレクサンダー様と一緒にいられるだけで幸せなのです。

 それを邪魔されないようにしたいのです。

 アレクサンダー様の安全を確保したいのです。

 クロエの助言は、それをかなえてくれる最高の策だと思えたのです。


 私はウェルズリー侯爵家に何の未練もありませんから、オールトン侯爵家から交渉する事にしました。

 ウェルズリー侯爵を説得して、分家がアレクサンダー様を狙わないようにする事が一番だからです。

 最低でも私が子供を殺した分家を黙らせ、味方にする必要があったのです。


「確かに、分家の子を猶子にして序列をつけておけば、お前たちに子供が生まれなかった時に、家督争いになるのを防ぐことはできる。

 子供を殺された分家も、怒りを抑えてお前たちを襲わないだろう。

 だが王家とウェルズリー侯爵が認めるとは思えん」


「それは大丈夫です。

 ウェルズリー侯爵は正室のイヴリン王妹に気を使っていますが、それは王家の血と縁を大切にしているだけです。

 イヴリン王妹を愛しているわけではありません。

 次代の後継者に王家から正室を迎えればいい事です。

 私とソフィアが生きている間は、王家との血と縁が生きているのですから、何の問題もありません」


 オールトン侯爵は真剣に考えています。

 これが人生の岐路です。

 思わずアレクサンダー様の手を探ってしまいました。

 アレクサンダー様はビックリされて、私の方に顔を向けられました。

 でも直ぐに優しい笑みを浮かべて下さって、私の手を握り返してくださいました。

 あまりの嬉しさに、胸が張り裂けそうになるほど心臓が大きく鼓動しました。


 以前の私なら、臆病になってしまって、自分から手を握りに行くなんて絶対にできませんでした。

 でも、心を失っている間に、あれほど恥ずかしい姿をあらわにして、全てのお世話をして頂いていた記憶があるのです。

 しもの世話までしたいただいたのです。

 もうなにも恥ずかしく思う事などありません。


「分かった、分かった。

 国王陛下とウェルズリー侯爵に話してみよう。

 だがお前たちの思い通りになるとは限らんぞ。

 場合によっては王家から刺客は送られる事を覚悟しておけ」


 アレクサンダー様と私が手を恋人繋ぎしているのを見て、オールトン侯爵が苦笑いされながら念押しされました。

 

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