第5話
「初めまして、ウィリアムと申します。
ソフィアさんは御在宅ですか?」
なんとも間の抜けた挨拶です。
大魔境にある、こんな粗末で小さい家を訪ねてきて言う事ではありません。
魔獣以外いないのが大魔境です。
狩人と冒険者以外入ってこないのが大魔境です。
一時的にキャンプするなら別ですが、定住しようと考えるような馬鹿はいません。
私以外は!
「いますよ。
でもウィリアムさんという方に心当たりはありません」
「従兄です。
貴男の従兄のウィリアムと申します。
どうしてもお聞きしなければならない事があって、こうしてたずねさせていただきました。
急で申し訳ないのですが、話を聞かせていただけませんか?」
従兄のウィリアム?
父の兄弟姉妹にウィリアムという名の子供はいません。
そもそも、ウィリアムは王太子の名前です。
王が子供に付けた名前を、貴族士族がつける事はありません。
先に名前を付けていたとしても、セカンドネームを使ってウィリアムは使わないようにするのがマナーです。
私もうっかりし過ぎていましたね。
堂々とウィリアムと名乗る以上、従兄の王太子です。
まあ、名前にうるさくない平民なら、ウィリアムと名乗り続けているかもしれませんが、平民が大魔境の奥深くに生きてたどりつけるわけがありません。
しかし王太子が何の用でこんな所まで私を訪ねてきたのでしょうか?
「王太子殿下でおられますか?」
「そうだ、従兄の王太子ウィリアムだ」
やれ、やれ。
嫌に従兄を連発してくれます。
従兄弟にろくな奴はいませんでした。
皆私を忌み嫌い、嫌がらせを重ねてきた連中です。
今会ったら間違いなくぶちのめしてしまうでしょう。
ですが、母方の従兄弟に会うのは初めてです。
母に王宮に連れて行ってもらったことなど一度もありません。
社交に参加させてもらった事も、ただの一度もありません。
母方の従兄弟が私をたずねてきたことも、一度もないのです。
私はいない子だと、早く死んで欲しい子だと、そう思っていました。
ですが違うのでしょうか?
王族の従兄弟達は、私を忌み嫌ってはいなかったのでしょうか?
そんなことはありえませんね。
私はこのような容姿です。
当然忌み嫌われているはずです。
期待すればするほど、後の落胆が大きすぎます。
アレクサンダー様の時のように……
今回は国防にかかわる重大事件だから、特別なのでしょう。
このまま会わないのが一番傷つかなくてすみます。
どうせ言われることは分かっています。
政略結婚を演じ続けろという命令でしょう。
絶対に嫌です!
ですが、まあ、会うだけは会わないといけないでしょうね。
向こうは礼を尽くしてくれています。
普通なら家臣を派遣して呼びつけます。
礼を尽くしても、普通なら王位継承権の低い王族を使者に派遣するくらいです。
それが態々王太子が直接来てくれたのです。
「分かりました。
直ぐに開けます」
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