第4話
思わず、アレクサンダー様を張り倒してしまいました。
恋焦がれていたアレクサンダー様を張り倒してしまうなんて!
今でも自分がやった事なのに信じられません。
恐らく、期待してしまったからなのでしょう。
恋焦がれ、執着し、それでも諦めるしかなかったアレクサンダー様。
そのアレクサンダー様から結婚の申し込みを受けたのです。
死んだアメリアに悪いと思いつつ、喜びで舞い上がっていたのです。
アレクサンダー様の本心に気がつかなかったのです。
いえ、気がつきながら、気がつかないフリをしていたのです。
私の本性は何と醜いのでしょう……
屋敷を飛び出し、少し冷静になった今なら分かります。
貴族によくある政略決婚だったのです。
分かっていたことなのです。
それでも、義務でも、愛を交わせると期待してしまったのです。
アレクサンダー様と私の子供を、この手に抱けると思い込んでしまったのです。
でも、それは、私の勝手な願い。
アレクサンダー様からみれば、家同士をつなぐだけの結婚。
形だけの、予備でしかない侯爵令嬢だとしても、私も貴族の義務を理解していると思われたのでしょう。
同時に、アメリアの姉として、アレクサンダー様とアメリアの仲睦まじい姿を、ずって見続けてきた姉ならば、アレクサンダー様の本心を分かっているはずだと!
貴族同士の結婚では珍しい、物語になって吟遊詩人に歌われてもおかしくない、相思相愛の婚約者を失ったアレクサンダー様の傷心を、分かっているはずだと!
でも、私はそんな理想的な姉でも女でもないのです。
アレクサンダー様とアメリアの相思相愛の仲を、密かに妬むような女なのです。
アメリアの死は心底哀しかったけれど、同時にアレクサンダー様と結婚できるかもしれないと、暗い喜びを感じるような、卑しい女なのです。
だから、願いがかなえられないと知って、理不尽に怒りを感じて、アレクサンダー様を張り倒してしまったのでしょう。
もう、こんな自分が嫌になりました。
これ以上アレクサンダー様に執着し、醜い姿をさらすのは嫌です。
可哀想な死に方をしたアメリアの事を悼んでいないような、人間の情の分からないような、身勝手な言動をしたくはないのです。
アレクサンダー様を愛している事も、アメリアを愛していたことも、二人の幸せを願っていたことも、嫉妬とともにですが確かにあったのです!
一人になりたい。
一人になって、アメリアの死を弔いながら、残りの人生を過ごします。
アレクサンダー様に会ったら、また愛憎の気持ちに苛まれてしまいます。
誰も追ってこれない、大魔境で隠棲しましょう。
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