第28話

「しっかりと見定めてくれ」


「頼みましたよ」


「「「はい!」」」


 三人の見届役が真剣に返事をしてくれます。

 先日のマッサージと違って、今日は二人きりではありません。

 ウェルズリー侯爵の生き残り、在地家臣の夫人から抜擢した見届役。

 オールトン侯爵家の見届役。

 アナンデール王家が派遣してきた見届役。

 この三人を前にしてマッサージをして子種を宿すのです。


 私が恥を忍んで子種を宿す術を聞こうとしましたが、その必要はなく、アレクサンダー様が各所に問い合わせてくださったのです。

 私が聞きたいと持っていたベテラン侍女、侍医、踊り子と売春婦だけでなく、王家や歴史の長い名門貴族家にも、自分の状態を話すという恥をさらして、問い合わせてくれたのです。


 そのかいがありました。

 歴史の長い貴族家には、アレクサンダーと同じ状態になった当主や跡継ぎがいた家もあり、対策方法も記録されていたのです。

 もちろん王家にも記録と対策があったのです。

 それの対策方法に、侍医に意見が加わり、交合をしなくても子種を宿す方法が見つかったのです。


 そしてアレクサンダー様と私はやり遂げました。

 私は子種を宿すことに成功したのです。

 憐憫の情と思慕から始まった関係が、一方的な恋心となり、そこから戦友という命を預けあう友情に変わりました。

 戦場だけではなく、政務も助け合い、家族として家を盛り立てる関係も育ち、今では互いを労わりあうマッサージを、いえ、愛撫を交わすことができます。

 いつか、交合を伴う愛情を交わせるようになるかもしれません。

 時間は幾らでもあるのです。


「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃ」


 生れました。

 無事に生むことができました!

 アレクサンダーと私の子供。


「奥方様。

 立派な男の子でございますよ」


 しかも男の子です。

 跡継ぎの男の子です!

 ウェブリン!

 アレクサンダーと私が相談して決めた名前、ウェブリン。

 ウェルズオールトン大公家を継ぐ希望の星。


「ウェブリン、お父さんだよ。

 分かるかい?」


「伯爵閣下。

 まだ目がよく見えておりませんので」


「そうか、そうなのだね」


 アレクサンダーが満面の笑みを浮かべておられます。

 これ以上の幸せはないと考えられておられるのが、私にも伝わります。

 本当によかったです。

 心配はサンケンブリッジ王国の反攻だけですが、産休に入るまでにできる限りの事をしましたから、まず大丈夫でしょう。

 新たな家臣も大量に召し抱えました、必要以上の心配は、ウェブリンに悪影響を与えてしまいます。

 今はウェブリンに私の魔力を与える事に専念しましょう。

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