第19話

「この卑し子!

 恩知らず、恥知らずに親を殺そうというのか?!

 やはり見た目通りの平民のように卑しいモノよ!

 キャスバル!

 たかだか侯爵家令息の分際で、王妹である私を殺そうというのか?

 恥知らずの無礼者め!

 下がりおろう!」


 醜く顔をゆがめたモノが何かわめいていますが、一切心を動かされません。

 哀しみどころか、怒りさえ湧きません。

 私にとって、単なる肉の塊でしかないのです。

 動物であろと、殺す時には感謝の念が浮かびます。

 命を奪い、我が糧になってもらう感謝です。


 眼の前のモノには、そんな思いもわきません。

 もっとも、こんな穢れた肉など食べる事はできません。

 魔獣の餌にする気にもなりません。

 言葉もかけずに殺したいところですが、それでは味方の士気に関わります。

 ここは私の語彙の範囲で罵倒しなければなりません。

 少なくとも王家の権威だけは剥がしておく必要がありますね。


「卑し子?

 その卑し子をおのれの腹から生んだのはお前だ、イヴリン!

 それは神前裁判で明らかです。

 ではなぜ私のような平民姿の子が生まれたのか?

 それこそお前のせいだ、イヴリン!

 お前の乱行が王族に相応しくない下劣なモノであったから、その穢れが私をこのような姿にしたのです。

 全ては淫乱下劣なお前のせいです、イヴリン!

 そして恥知らずなのもお前です、イヴリン!

 家臣領民のため、国のため、命懸けで戦う者を背後から襲わせたイヴリン!

 己は戦うどころかベットで愛人と戯れていた恥知らず、イブリン!

 自ら戦う事もない侯爵夫人の分際で、最前線で戦う次期侯爵のキャスバル様に悪態をつくなど、狂気以外の何物でもありません。

 そもそも王家に相応しい魔力があるのなら、婿を迎えて王族に残って王家王国のために働くのが普通です。

 それが侯爵家に臣籍降下させられた!

 魔力も王族とは言えぬ出来損ない!

 立ち振る舞い行動も王族に品位を穢す腐れ外道!

 だからウェルズリー侯爵家に押し付けられたのでしょ!

 ウェルズリー侯爵の不幸はそれが全てです。

 お前がウェルズリー侯爵家に来なければ、このような不幸は起きなかったのです。

 そもそもこれは王家の謀略ではなくて?

 オールトン侯爵家とウェルズリー侯爵を潰し、領地を奪うためにお前のような下品下劣なモノを、王家が送り込んだのではなくて?

 先に戦いを仕掛けてきたのは王家です!

 そのような王家に遠慮する必要などありません!

 家臣領民を護り、オールトン侯爵家とウェルズリー侯爵の家名を護るためならば、今まで戦ってきた敵と手を結んで王家に報復する!

 その証として、王家の送り込んだ間者をこの手で殺します!」


 私は、演技の罵り言葉と共に、練り上げた魔力を風魔法にして、腐れ外道のイヴリンに叩きつけました。

 イヴリンは四肢をはじめ身体中を切り刻まれて死にました。

 顔だけは、王家に宣戦布告する場合に必要なので、傷つけずに残しました。

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