第25話

「あの山には千の魔鼠骨兵を伏せてくれ。

 下の道を通行する者は、誰であろうと皆殺しにするのだ」


「近隣の民が間違って道を通るのではありませんか?」


「近隣の村々には警告をだそう。

 そもそも敵国である我々が山のこちら側位にいるのだ、近づく者はいないだろう」


「はい、確かにその通りですね」


 アレクサンダー様と私は常に行動を共にしました。

 特に戦場では、互いの背中を護るようにペアを組みました。

 それも当然ではあります。

 夫婦であること以上に、戦場では魔力量が大切なのです。

 助け合うべきペアが、片方だけ魔力切れを起こしては何もできません。

 魔力の多い方は実力通りに戦えません。

 魔力の少ない方は、限界を超えて戦う危険があります。

 アレクサンダー様の魔力にあわせられるのは、王族級の魔力を持つ私だけです。


 アレクサンダー様と私は、占領した領地の開拓開発を断行しました。

 国内の貧民を、農民や労働者として受け入れたのです。

 奴隷は主人がいるので勝手に移動できませんが、貧民なら自由に領地を移動することができます。

 特に貧民街対策に困っていた王家は、移動のための食糧を支援するほど積極的に、王都の貧民をこちらに送ってきました。


 ですが敵の領地奪還作戦に備える必要があります。

 直ぐに奪還軍を編成できなくても、アレクサンダー様と私が統治に失敗するように、後方攪乱を仕掛けてくるかもしれません。

 山賊や盗賊に変装した少数の軍で、略奪や虐殺を行うかもしれません。

 それをふせぐために、要所要所に魔術兵を駐屯させたのです。


 魔術で創り出し魔術で使役する魔術兵です。

 単純な命令しか理解できません。

 それこそ動いている者は皆殺しにしろとか、ただただ真直ぐに進めとか、真直ぐに進み邪魔する者は殺せとかです。


 今回アレクサンダー様と私が魔術兵に命じたのは、決められた範囲を護る命令で、通行しようとする者を皆殺しにしろというモノです。

 ただ奇襲で殲滅させられると大損なのです、守るべき街道には駐屯させず、敵の眼から隠れられる森や草原や水中に潜ませています

 そのうえで、守備範囲に入りこんだ人間を殺せと命じています。


 一番兵数が多いのは魔鼠骨兵で、総数二万となります。

 二番目に多いのが魔兎骨兵で、総数一万位なります。

 ですがこいつらは弱いのです。

 それなりの武器を持った成人男性が相手だと、勝ち目がありません。

 魔鼠爪兵や魔兎爪兵もそれほど強くなるわけではありません。

 彼らの役目は雑兵を相手にする事、索敵をする事、なにより盾替わりです。

 アレクサンダー様と私が少しでも期待しているのは、魔牛角兵や魔鹿角兵です。

 切り札としてとってあるのが、魔亜竜牙兵です。

 魔亜竜牙兵なら、士族程度の魔法使いなら討ち取ってくれますから。

 

 

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