第6話アレクサンダー視点

「アレクサンダー様と同じでございます。

 心の病だと思われます。

 アレクサンダー様は女性を抱く力を手放されましたが、ソフィア様は全てを手放されたのでしょう」


 我が家の見届役が診察したうえで判断したことを教えてくれる。

 ウェルズリー侯爵の見届役も同じ意見のようだ。

 二人とも僕の事を一切攻めない。

 まあそれも当然で、二人とも僕の症状を知っていたのだから。

 いや、二人だけじゃない。

 我が家の主要な人間も、ウェルズリー侯爵家の主要な人間も知っていたのだ。


 僕に子供が作れないというには、我が家にとってもウェルズリー侯爵家にとっても、重大な事なのだ。

 我が家にとっては嫡流が絶えることになる。

 ウェルズリー侯爵家にとっては、ソフィアに子供ができないと、せっかく取り込んだ王家の血が途絶えてしまうことになる。

 何より両家の血をつないで同盟することが不可能になる。


 我が家は今から傍流から後継者を選ぶとなると、血で血を洗う競争になるのは必定で、そこを隣国に突かれたら、当主になりたくて隣国に寝返る一族がいるかもしれないのだ。


 一方ウェルズリー侯爵家は、ソフィアに婿を取ればいいのだが、平民としか思えない外見が問題だ。

 政略だとは理解していても、ウェルズリー侯爵家の当主になれると分かっていても、結婚を嫌がる者が多い。

 そもそもウェルズリー侯爵家の一族一門は、ソフィアを苛め抜いていた者ばかりだから、無理やり婿にしたらソフィアが自害してしまう可能性があるのだ。


 だから僕とソフィアが結婚するのが一番おさまりがよかったのだ。

 僕が幼い頃からソフィアをかばってきたことが大きかった。

 だからソフィアなら、僕も抱けるかもしれないと皆が思ったのだ。

 僕も淡い期待を抱いていた。

 ソフィアが相手なら、失った力を取り戻せるかもしれないと。


 ソフィアが僕の事を慕っているのは、みなが知っていたことだ。

 僕だって朴念仁じゃないから、気がついていた。

 気がついていたのに、気がついていないふりをし続けた。

 僕は、心の汚い人間なんだ。

 穢れた、どうしようもない屑なんだ!


「アレクサンダー様、ソフィア様を助ける気がおありですか?」


 ウェルズリー侯爵家の見届人が話しかけてきた。

 確か名前はクロエだったと思う。

 かなり真剣な表情をしている。

 決死とまでは言えないかもしれないが、色々覚悟したうえの献策だろう。


「僕にできる事なら何でもしよう。

 ソフィアがこうなったのは僕のせいだからね」


「では、心を手放したソフィア様のお世話を、アレクサンダー様自身がやってくださいますか?

 侍女や召使いの力を一切借りずにです。

 着替えや身体を拭くのも、下の世話までの全てです。

 どうですか?

 やれますか?!」

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