第14話

 敵は陰険巧妙でした。

 平民の軍隊を数多くの部隊に分けて、村や街を襲うのです。

 防御の貧弱な町や村を狙うのです。

 大軍でまとまって襲てこないのは、アレクサンダー様以下の貴族が、強力な魔法で大軍を粉砕全滅させたからだそうです。


 敵はその教訓をいかして、五月雨式に侵攻してくるそうです。

 しかも、中には敵の貴族だけで編成された部隊もいるのです。

 彼らは速攻で攻撃して逃げます。

 一撃離脱です。

 初期の頃には、時間をかけて略奪するサモシイ敵貴族もいたそうですが、そんな者はアレクサンダー様たちに捕捉され、皆殺しにされたそうです。


 だから今では、ほとんど山賊と変わらない敵平民軍が村や街を襲って略奪し、アレクサンダー様たちが迎撃しているすきをついて、オールトン侯爵家にとって大切な村や街を破壊し虐殺するのです。

 特に安全な後方にあるはずの村や街が襲われると、安心して暮らせるところがなくなり、領民の逃亡までおこしてしまうのです。


「正直助かったよ。

 ソフィアの魔力は、侯爵家というよりは王家の魔力といった方がいい量がある。

 安全マージンを多くとっても、今までの三倍は前線で戦える。

 これなら敵貴族に戦線を突破されることはないだろう」


「お褒めに預かり光栄ですわ」


 正直苛立たしいです。

 アレクサンダー様以外の全ての貴族を憎んでいますが、特に憎いのは母上、いえ、イヴリンを増悪しているのです。

 王家に相応しい魔力があると言うのは、そのイヴリンの血が濃いという事です。

 褒められていても怒りと憎しみが募ってしまいます。


「そんな顔をしてはいけないよ。

 ソフィアの気持ちは分からないわけではないよ。

 だけどね、その力があるからこそ、民を護ることができるのだよ。

 僕にそれだけの力があれば、アメリアを死なせずに済んだかもしれないんだ……」


 胸が、胸が痛みます!

 思わず口に出されたのでしょうが、その名は聞きたくなかった。

 アレクサンダー様の純愛は頭では理解できますが、心が拒絶するのです。

 でも、今は飲み込むしかありません。

 アレクサンダー様を責めてもどうしようもないことです。

 仕方がないことではありますが、ふさがったはずの心の傷から血が噴き出します。


「すまない!

 妻のソフィアに対して不誠実で無神経な事を言ってしまった。

 時間はかかるかもしれないけれど、アメリアの事は忘れる。

 だから許して欲しい」


「いえ、アレクサンダー様がアメリアの事を心から愛しておられたことは重々承知しておりますから、忘れてくれとは申しません。

 ただ、時間がかっても、政略結婚の義務を果たせるようになってください」


 痛い!

 胸が、痛い!

 心の傷ではなく、本当に胸が痛い!

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