少女は、鋼鉄巨人の夢を見るか?
物語は3人の視点から描き出される―
一人目は、「アンちゃん」と皆から呼ばれている、残念ハーフであるところの妄想少女。都立の工業高校に通う一年生。
今日も今日とて「鋼鉄兵機」という名のロボットで、巨大な怪物たちを撃ち倒す空想科学じみた「夢」を見ては、寝坊して遅刻しそうになる毎日。
学校に行けば、教育実習のイケメンに親友とふたり心ときめかせたり、気を引こうといろいろ画策したり。
そんな平凡ながら平穏な日常を送っていた彼女は、ある時、自分の見ている「夢」が連続性を持って展開していることに気づく。ときに俯瞰するように、ときに同化するように、「夢」は少女の中で徐々に存在を大きくしていくのであった。
二人目は、少女の「夢」の中で人型の鋼鉄兵機を操り、戦う女性―アルゼ。その超人的な操縦技術によって敵を屠るその姿に、少女はいつしかのめり込んでいく。女性と、その彼女が属するところの「自警組織」の面々……蜘蛛のような異形を持つ機体を超絶なGを物ともせずに操るクール女史エディロア、大出力のパワーと質量で敵を圧倒するマッシブ機体をぶん回す油に塗れたおっさんオセル……たちに意識を次々と「憑依」させるように移ろいながら、少女は現実と見まごうようなリアルな「夢」の中で、奮闘する。
三人目は、少女の「夢」なのか、少女の「夢」の中の女性の「夢」なのか、それとも現実なのか、定かではない世界で、直近の記憶を失い地底をさまよう謎の人物―「ヤクモ ミノル」。自分の名前と年齢は覚えているものの、自身が宇宙旅行のさなかに何らかのアクシデントに見舞われ「異世界」に辿り着いてしまったことの経緯が抜け落ちたまま、閉じ込められた「洞穴」の中を何とか脱出へ向けて四苦八苦する。
そして。
少女が見ていた「夢」は、十七年前、自分が生まれる前に起きていた「災厄」の事実だった。自らを重ね合わせるようにして見ていた「夢」の鋼鉄兵機のパイロットが自分の母親だと知らないまま、時を経て甦り、地底より湧いて出て来た怪物たちに少女は襲われてしまう。自らをかばった親友が傷つき倒れていく絶望の中、助けに現れたのは、母親とその搭乗する鋼鉄兵機だった。
時を同じくして、記憶を失っていた自分の「父親」も、地底から抜け出し甦った記憶と共に、少女の元に救援に駆けつける。しかし、怪物の骸から現れたのは、過去と同じくこの地に惨禍を及ぼした「骨鱗(コツリン)」と名付けられた、邪悪な輩なのであった。
強大な力を欲し、その主を喰わんとするその魔物に、執拗に付け狙われる少女。常軌を逸したその力に、両親も、地区自警の面々も、なす術がない。逃げまどい追い詰められた少女は、怪物たちが湧いて出て来た「穴」から、突如自ら「出土」してきた謎の鋼鉄兵機に誘われるようにして搭乗する。それは「骨鱗」をも凌駕する、遺伝子を、細胞を「交雑」することで未知の力を発する「ハイクロスブリッダー」なる超生命体の器なのであった。
「骨鱗」と「穴」をその力で消滅させた少女、アーヌは、自尊心という多大な犠牲を払いつつも地区の平和を守った形になったものの、その後はなし崩し的に地区自警に入隊させられると、学業との両立を強いられながら、都度都度呼び出されては怪物の残党狩りへと駆り出されるという毎日。それでも。
「日常」を守るため、「日常」をこなしながら、今日も少女は行くのであった。