●atone-30:仕儀×チャートリュース
意を決し、崖下へと滑り降りていく
「……」
「
「奴」相手に、木とか建物とかの遮蔽物をうまく使って、みたいな芸当は出来そうもないし、かえって逆にそれを利用されて死角からあっさりやられてしまう可能性が高い気がしたからで。
結構な川幅だけど、今の季節は、常人で言うと膝下くらいまでの深さしかない水量がゆったりと流れるくらい。ジェネシスで言うと、足の裏がひたるくらい。水中での運用は想定されてないこの機体なので、まあそれは有難いのだけれど。
<……>
奴……ヴィタメタルは、その川の中ほどに、清々しいほどのわざとらしさを醸した、正にの「大の字」で仰臥し漬かっていたわけで。私の先ほどの攻撃が効いたわけではないということは、その様子によって逆に分かろうもんだったけど。ああもう、いちいちこっちの神経に触るな!!
<……なぁんかやり慣れとるなぁ、姐ちゃん……
私たちの着到を察したのか、そいつはいきなりざばと、水しぶきを上げながら上体を起こしてくる。その白い鱗に覆われた身体のどこにも、
それよりも、一撃必殺の間合い/瞬間を窺っている……奴の言う通り、私もジンも、かつて若かりし頃(十三歳と十五歳!!)に、こいつとは別の「
その時は、いいようにジェネシスの武器とか、右腕とか、存分に喰らい呑み込まれてしまったのだけれど。その時のことを少し思い出して、思わず歯噛みをしてしまう私だけれど、落ち着いて、落ち着くのよぉ~アルゼ。
「光力」の類は、こいつらには効かない。吸収されて「力」とされてしまうのが関の山だ。だからこその物理攻撃……でも先ほどの連撃も、野郎の芯まで届いたとはとても言えなかったわけで。このヴィタメタルとかいう個体は、体術……おそらくは「本能」に基づくものだとは思うけれど、それに「生まれつき」精通していると見た。
全てがいなし力を散らされている……そんな手ごたえ足ごたえだった。勢いよく下方へと吹っ飛ばされていったのも、「棒」での衝撃を受けた瞬間に、そこを起点にわざと弾け飛ぶことでまともに喰らうことを避けたのでは……そう思わせるほどの「わざとらしさ」だったわけで。
水面を散らしながら億劫げに立ち上がった姿態からも、そのことは窺いしれようものであり。でもまあここまではこちらとしても計算のうち。ほんとの手の内を晒さずに、奴の意識をまだ「近接格闘」へと向けられていると、希望的観測も込めて見ている。
一面拡がる川岸の砂利が、再び雲間から差してきた陽光を水の流れのとは別の跳ね方でこちらに返してくる。見た目だけなら穏やかな雨上がりの昼下がり。でもそれとは真逆であることは分かっているし、何とかの前の静けさという感じを覚えなくも無い。
彼我の距離は
「一撃必殺」が、ハマる可能性は高い。多分にそれはやっぱり希望的かもだけれど。それが唯一にして最善の方法であると思うから。
(アルゼ……)
と、操縦席の横でえずきながら蹲っていたところから何とか復帰したかに見えるジンが、その
(いや、アレをやるんだよね?)
いやだそんな、
「……」
私は気を取り直して軽く頷くと、右の操縦桿を上に引き出し、内部の「理光石」を露出させる。同じく左のも。ジンの方を振り返り目を合わせると、シートから前かがみになるように身体を浮かせる。背後でゆっくりとシートを跨いだ体温を感じると、再び体勢を戻してもたれかかった。途端に包まれる、汗と脂が入り混じったような、私をとても落ち着かせる匂い。
「ん……」
思わず鼻からそんな吐息がかった甘い声が漏れてしまうけど、だめだめ。落ち着こうとするものの恍惚の顔へと移行してしまうのに抗えないまま、後方から両腕を伸ばして、肩越しに抱きしめられるようにされるのに身を委ねている。さらに顔の前で
はぁ……これが互いの光力を「絡ませ」「混じり合わせ」、強力な光力を生成・精製するための最適な体勢であるのだけれど、何というかこう、幸せ感もハンパなく増幅されそう……
でも、あれ?
「な、なんか腰の辺りに18
「……だからさぁ、そういうの要らないからっ」
最近ノリの悪くなってきた夫の
「……」
何回目になるか分からないほどの気の取り直し方をした私は、ジンの掌越しに操縦桿の根元、理光石に指先を触れさせる。そしてそのまま、
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