●atone-33:脅威×イエローオーカー
丘の頂上を反時計回りに回り込むようにぐるり半周して、
だいぶ距離は稼げた……? 先ほどの「黒団子」からは丘を挟むかたちで真逆の方向。結構な体感速度に、途中からは恐くなって前で運転するジカルさんの細い腰にかじりつくようにしがみついてた私だけれど、ふ、と
とりあえず逃げおおせた……? そう見ていいのかな。とか思った瞬間、
<まずいですのことねー……『穴』からどんどん湧いていますのことよぉ>
ヘルメット内の通信機を通して、唸るようなジカルさんの言葉が漏れ聞こえてくる。え、と視界を前方へ向けると、
「……!!」
見下ろした、見慣れたはずの
……中のヒトたちを狙っている……!! 目の前であっけなく崩れていく日常に、何とも言えない胸苦しさと、エッコの容態のこととかが思い返されたりしてきて、あっ、と思った時には胃の辺りが意思とは関係なく絞られるように収縮してて。
「……」
勢いよく食道を駆け登って来たものを、口の中じゃ堰き止められずにヘルメットの中に戻してしまっている。
涙目で、さらに滴で視界が狭められたバイザーの向こう、結構近くに黒い四足の獣のようなモノがやけに長い舌みたいのを垂らしながら、明らかに私を狙って接近したのは見えたのだけれど。もう私は慄いて声にならない声で喉奥を引き攣らせるだけしか出来ない。と、
<……>
ジカルさんの右手には大ぶりの拳銃のようなものが握られており。そこから弾丸を発射したんだろうなってことは分かった。「光力」を固めて「光力」の力で撃発させて発射する……教科書での知識では知っていたけれど、目の前で見ることになろうとは。
続けざま、伏せてくださいねーとの言葉と共に、今度は後ろを振り返りつつ、私らの背後に迫っていた「マ」をたいして狙いもつけていない素振りで、でも的確に撃ちしていくす。凄い……この人も凄い。
しかし。
<……ちょっと多過ぎますのことねー、これ停まってしまったのは悪手かも知れませんねー>
相変わらずの間延び口調だけれど、身に迫る危険は、周りを流れる剣呑な空気で感じることが出来た。
道の前後、そして、両脇の住宅……その二階建ての屋根の上にも。
「……!!」
今しがた仕留めた奴らと同じような獣型……それらが、十匹以上はいる……!! 囲まれちゃってるよ……
「も、もう私を置いてってくださいッ!! あいつらは私を狙ってる……から……」
そうとしか思えなかった。思えば、校庭で「白銀」色の奴に襲われたのも、坂道で「黒団子」が道を塞いだのも、全部、私を目標にしていたからじゃないのよ……私なんかをかばうから、エッコは……!!
<自暴自棄は、自分のためにも、相手のためにもなりませんのことよ~。アンチャンさん、あなたのその力、奴らが欲するほどのその力、いつかきっと役に立ちますのこと。みんなを助けてくれるかも知れないのこと。だから今は私たちにお任せして、堂々とお助けされておくのことね~>
また泣きそうになっていた私を、優しく包むかのように、ヘルメット内に響くジカルさんの声がそう励ましてくれるけど。でも……
「……私……わたし……」
とかまだ踏ん切りつかないままべそをかく私。しかして、そんな逡巡すら吹っ飛ばすほどの衝撃が、天から降り注ぐかのように、いや正に降り注ぐのだけれど、とにかく襲うのであった。
<幸い、もう私たちは『逃げる』ことに集中できそうですしね~、『マ』よりも恐い
心なしか、いつも
刹那、だった……
「!!」
曇り空を割るようにして、「槍」が、正にそう表現する他ない真っすぐなモノが、降ってきていた、降り注いできていた。空を斬る音に気付いて見上げた時には、超高々度から流星のように滑り落ちてきたそれら全てが、地上の至る所にその鋭利そうな切っ先で刺し貫いていたわけで。
無数にも見えたそれらは、反応出来ずに固まってしまった個体も、気配に気づいて避けようと身を躱した個体をも、一律平等にその首元を貫く一点に、まるでそこに目標の目印があるかのように、寸分違わず収まっていたのであった……
こ、この「槍」……いやこの鋭利な「脚」!! 見たことある見たこと!! 夢で!!
静寂を一瞬取り戻したに思われるこの場に、空を斬る音がまだ聴こえてきている……ふおんふおん鳴るその音の出どころは……と上空を見渡した私の目の奥の網膜に。
「!!」
ガン刺しで入って来たのは、真白い球体がその周囲に「浮き輪」のように何かを纏わせながら、ゆったりと空中を闊歩している有り様だったわけで。
思わずヘルメットのバイザーを跳ね上げて凝視すると、それはまさに夢で見た、そして私がその
「……『ヴェロシティ』」
だったのであり。その未確認たる飛行する物体が、ある程度の近場の上空まで迫ってくきたところで、やっと私にもそれが高速の横回転をしていたことが悟れた。いや、悟れたは悟れたけど、中にヒト乗ってるんですよね? そこまでぶん回されて平気なものなのでしょうか……でも想像してしまうとまた吐き気がぶり返してきそうだったのでやめた。
「……」
無数の脚を、大股を開くように左右に均一に展開させ、それを回転させることで宙を舞う……原理的にそんなことが可能なのか分からなかったけど、確かに空を飛んでいる謎の球体はさも当然、といった様相で、あちこちに「獣」を貫いて突き刺さっている「脚」を空中に浮遊したままで、さくさく回収しているよ冷静過ぎて怖いよ……
あの「脚」って射出可能だったんですね……そしてどう狙ったのか分からないですけど百発百中レベルの精密さですよね……と真顔で固まってしまう私に向けて。
<『マ』の湧きが止まらない。アルゼの娘……ひとまず『北地区』のシェルターに身を潜めるのです……>
何か、ありがたい御託宣のような、でも何故か掠れておどろおどろしさも有した、でも底の底では優しげなる、何とも不思議な声色が、「白色球体」から放たれてきたわけで。
その静かながらも有無を言わさぬ御言葉に、はいィィィィィッ、と私とジカルさんは何故か
いまいち把握は出来なかったけれど、同調したよしみか(?)、心強さは確かに感じ取れた。
いろんな人が、私を助けようとしてくれてる。であれば絶対逃げるんだ。逃げ切ってやる。決意あらたに、私はむわんとする臭気が立ち昇るヘルメットのバイザーをえいやと閉めてジカルさんの腰をしっかりと掴んで急制動に耐える姿勢に移行していく。
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