●atone-15:動地×バーントアンバー
先ほど僕に襲い掛かってきた件の「獣」のその身体は、今や、地面に貼り付くかのようにしぼんで平たくなっていた。まるで空気の抜けた風船のように。
その変貌ぶりも怖ろしかったわけだけど、大きく見えてたノは「威嚇
「こコ最近、急にこいツらの出現、増えテいますのコトねー。十何年前の、再来じゃなイかとか、言われテはいまスがねー」
そうなの? こんな物騒な生物が闊歩しているの、この「異世界」では? その辺のこと、全然知らないのだけど。というか本当にここはどこ? そんな混乱気味の僕に向けて、
「ワたしのぉ、ナマえはぁ、『ジカル』とそう呼ンでくだサイねー。お見かケしたトころー、ジンさんは『記憶』を少シ無くナってるのコとみたいでスけども、
つらつらとそんな怪しい「日本語」を操る女性は、やっぱり異常なほどのフレンドリーさなわけであって。顔に掛けていた黄色がかった黒色のゴーグルを額の所まで押し上げると、にこりと笑顔を見せてくれる。
「ジカル」、と名乗ってくれたその女性の顔は、つくりはエキゾチックと言ったらいいのかな、とても魅力的なものだったけど、思わず目を引くのは、その瞳の大きさだ。細い細いとことあるごとに揶揄される僕の、三回り以上は大きいんじゃないだろうか……映像処理してるのか、みたいな感じを醸してくるものの、当たり前だけど
とにもかくにも、知り合い(?)がいてくれたのは非常にありがたく心強い。
大きな瞳を僕に向けて、穏やかな笑みを浮かべてきてくれている「ジカルさん」……おそらくは
何デまた、こンなところに? との問いには、やはり答えることは出来なかった。僕が聞きたいくらいだったから。それにしても以前にも「こんなこと」があったと? てことは僕は結構な長い間、この「異世界」に逗留していたというのだろうか……その辺の記憶はやっぱり甦ってきてはくれないのだけれど。転生/転移してからの記憶喪失。そんな
「ま、とりあえずおウチまでお送りいたシますのこトねー、うぅン、何だかワたし、ジンさんと初めて会っタの時、思い出したりしテ、懐かシいの気持ちでいっぱいのことネー」
なんかうきうきしているジカルさんに促されるまま、僕はまた舗装された「道」を、見えていた街方向へ向かって歩き出す。
どうやらこの世界で、僕の居住している「家」は、まだかなり先とのことだそうで。ワたしの「愛車」なら20
「こレはもう、20年は乗っテますノかなりの旧式でスねー、でもまダまだ現役。心配無用ノことデすから、後ろニどうゾー。『獲物くん』と相席になリますでスけれど、そこはまたご勘弁ネー」
ジカルさんは額に上げていたゴーグルを降ろして装着すると、何故か「手鍋」のような持ち手のついている……いやもう本当の手鍋なんじゃないの? と思わせるほどの形状のものを
「……」
それをやっぱりヘルメットが如く、頭に巻き付けた布の上から躊躇なく被ると、僕には普通の形のフルフェイスの白いヘルメットを放ってくれる。
「ジカル=ソ、エメジンエソ、ビフィドハイネ、ポッサ、ケソゼヘル」
「持ち手」と思われたところを下方へと曲げると、そこに向かってジカルさんは何事か報告するかの口調で喋り出す。ああー、やっぱそこインカムみたいな感じになるんですね……でも二度見してもその形状はやっぱり手鍋だぁー、しかして突っ込みたい気持ちを何とか抑え込むと、僕もそそくさとその渡されたヘルメットに頭を押し込む。とにかく記憶が戻るまではおとなしくしていよう。というかそうすることしか出来ないけれども。
「バイク」にその長い脚を後ろに蹴り出すようにしてから跨ったジカルさんに、後ろに乗っテくださいのこトねー、と促され、僕は先ほどの「獣」の死骸を背中に
その時だった。
「……!!」
腹に響くような破裂音。と同時にそれの出どころを思わず目で追う僕だけれど、いま正に向かおうとしている「街」側の方角だ……!! 建物が連なる隙間から、黒い煙のようなものが立ち昇ってくるのが見えている。いくつも。ここからは結構遠くに見えるのに、「音」は近場で鳴らされたように感じた……尋常じゃあ、ない。
さらにその「音」もそうだったけれど、その後で遅れるようにしてやってきた、周りの木々の葉とか枝を一斉にざわめかせている長い振動? 震動? に、僕の平常心もぐわんぐわん揺さぶられる気分だ。周りの空気が擦れ合って鳴っているような泣いているような、そんな不気味な音が反響している。錯覚かも知れないけど。いや錯覚であって欲しい……
真顔で白目になりつつ、意識を他の次元へと飛ばそうと試みている僕だったが、どっこい「夢」とかじゃあ無さそうであり。
「ジンさん、我々ガ現場にいチばん近そウですねー、
え「我々」って僕も? とかいう疑問とか困惑は、既にその場に置き去りにされていたわけで。頬の肉が全部後方へと引っ張られていくような感覚を僕の神経が受け取った時には既に、バイクは先ほどの「音」にも負けず劣らずの腹に来る爆音を響かせながら、樹脂コートされた「道」をカッ飛び始めていたのだった。Noooooooooぅッ!!
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