●atone-39:決着×コズミックラテ


▼▼▼

 見上げた、上空で、なまめかしい肢体/姿態の鋼鉄兵機が、悶えのけぞって果ておった……


 そんじょそこらの悪夢くらいでは、まかないきれない追いつけないほどの非尋常沙汰が、


「……」


 まさにの上空で巻き起こっていたわけであって。そんでもって、真顔以外に相対することなど出来そうも無いこの混沌時空の中心で、切なげなる絶頂声を地区全土に響き渡れぃくらいに絞り放ち出したのは。


「……」


 どう控えめに見積もっても、まぎれもなく自分の、お腹を痛めて産んだ愛する娘のものであるようなのであって。


 うん……流石の私もご近所にまで漏れ聞かすほどの節操無さは持ち得ていないけどねへぇ……みたいな、そんなどうとでもない思考に自分の立ち位置をずらさないと、脳内が摩訶不思議な事象でパンクさせられそうだったのであった……


 しかして。その突拍子も無い音声を皮切りに、宙に浮いたまま伸び切った機体のあちこちから、とんでもない量の「光力ビーム」が、目に来るピンクい色彩を伴って、弾けるようにして四方八方へと撃ち散らされていく……


 それら無軌道に飛び散ったかに思えたエネルギーの残渣のようなものたちは、


「!!」


 寸分違わず、周りで蠢いていた「マ」の群れたちに吸い込まれると、視界に入ってた限りでは、一匹残らずその身体を消し炭にしていってるよ怖いよ……


 さらに、


<うおおおおおおおおおッ!! な、なんつうエネルギーやこれぇぇぇぇぇぇッ!? こんなん喰いきれへんて!!>


 聞いたこともないような、「骨鱗コツリン」の慌てふためいた声。機体が突き出した両手の前に、そいつは失われていた下半身パーツを戻して今まさに喰らい付こうみたいに胸のあたりにまた醜悪で巨大な「口」を開けていたのだけれど、その眼前に集中したかに見える、どピンクの「光球」のようなものが、性急にその直径を膨らませていっておる……白い鱗を纏った「骨鱗」の体を呑み込まんばかりに。逆に喰らわんがばかりに。


<……>


 そんなうろたえる獲物コツリンを前にして、宙に浮いた流麗な機体はその「光球」を両手で掴むと、ぐいぐいと、おあがりなっせといった風情で、しかし有無を言わさぬ感じでぱくり割れた「口」に押し込もうとしているよ無言で……


 この、上位に立ったと認識した途端に、内側から相手をぐずぐずに崩壊させていくかのような静なるイキれかた……似ている。アクスウェルウチエディロアだれかさんに非常によう似ておる……搭乗しているのがほんとにうちのアンヌちゃんだとして、あの歳でもう佐官級のメンタルを保持しているとわ……うぅぅん、将来有望というか畏怖というよりも純粋な恐怖という意味での末怖ろしいというか……


 私は拍車かかりまくりな混乱に、大脳以下すべての中枢器官を侵されつつもそれを如何とも出来ないまま、素立ちの機体ジェネシスの中で、気絶して身を凭れさせてきているジンの首を肩で支えつつ、ぽつねんと座り込むばかりなのだけれど。


▽▽▽


 ここいちの大波濤を乗り越えたは、急速にまるで賢者が如くに、頭の中が落ち着きを取り戻し、それを通り越すかのように冷え凍えてきていた……


「……」


 その後に全身を埋め尽くそうとしてきたのは、穏やかに凪いだ心の中で一点激しく燃え盛る憤怒の激情と、残るは恥辱・困惑・色即是空とあと何かだったのだけれど……


<私……目立ちたくないって言ったよね……?>


 光るピンク色の「球体」に、両腕と胴体を閉じ込められるようにして埋められた状態のその「軽石」の奴の震えを起こしているアンバランスにでかい瞳を見据えながら、私は嬌声を上げ続けて枯れひりついた喉から、そんな掠れた言葉を絞り出していく……


 き、聞いてへんてそれにそもそもがまともな会話の交換キャチボォルかてしてへんかったやイヒィィンッ、と、「軽石」の気障りな言い訳の言葉が非常に逆鱗に触るので強めにその身体を球体ごと機体ヴァーチューの手指を駆使して締め上げていく……


<なのに何だこれは……地区中に響き渡るほどの大声ばくおんではしたないことこの上ない絶頂声を大放出だと……? どぉすんだよツクマ先生にもエッコにももしかしたら聴かれてちゃったかもじゃないのよ……それに地区ここの老若男女皆さんにも分け隔てなく聴かれてたとしたら……明日からどの顔で生活していけっつぅんだよこの野郎ェ……>


 えええぇ……そなレベルの話なんですのん……? いや明日からの「日常」をもう心配してはるいうことは、ワシらのこの災厄……「無し」ってことにして物事考えてはりませんかぃ……のような困惑気味の言葉が、「軽石」のどの口か分からないけど、身体中に開き始めて酸素を求めるかのようにぱくぱく開閉し始めた「口」から漏れ出てくるけど。


 ……当たり前じゃないのよ。私たち・・・はこれからお前らを何事もなく屠って退けて。てめえらの存在ごと、襲来ごと、「無かった」ことにしてやんだからよぅ……そうして。


 ……当たり前の日常を明日からも送るんだから。ママとパパと、エッコと、ツクマ先生と、あと地区自警の皆さんとも。そしてこの地区に住むすべてのひとたちと。


<どぅあかるぁぁぁぁぁ……明日っから中坊どもぬぃぃぃぃ……『アヘーヌ』とか渾名付けられて後ろ指さされたりしたら、どう学生生活をつつがなく送っていけってんだっつってんぬぉよぉぉぉぉぉぉん……!!>


 ヒギィィ、ワシらがやって来た地の底よりも深きモノが、ワシの身体を触れるはしから塵へと変えていっとるぅぅぅ……というような絶叫を上げながら、「軽石」の身体が、鮮桃色どピンクから暗赤紫色どどめいろへとその色を変化させていた「光球」の中で押しひしゃげられていく……


<なんでやぁッ!? なんで『光力』を弾くワシの身体がァァァァッ!! こうまで無力なんやぁぁぁ……ッ!!>


 「軽石」を呑み込んでいく「球体」を見つつ、私は、私と直結してるかの如き「誰かヴァーチュー」と意識を重ね合わせながら、最後に言葉を放ってやる。


アーヌは、この惑星ほしで生まれた人間と、遥か彼方よりやってきた『チキュウ人』との交雑種ハイブリッド……そしてその私と、『神』こと究極の『意識生命体』であるところのアタイが交雑クロスブリードすることでぇ……すべてを摩砕せしめる究極の『光力』を生み出だす存在に昇華するって寸法よぉぉぉぉぉん……!! そう……名乗るのならば、ワタイは、光と光の『ハイクロスブリッダー』……ッ!!>


 、言うてることの意味は五リヒィンほども理解でけへんものの!! この身体に感じるのは確かな「力」……ッとか言いながら、そして最後の方はおぞましいほどの大絶叫の断末魔になりながら。


「……」


 「軽石」は縮退しつつの爆散をかますと、私の掌の中で完全に消滅していったのであった……体に感じるのは途轍もない疲労感であったものの、私は残る最後の力を振り絞って、もうひとつ「光球」を作り出すために「力」をいまいちど集中させていく……


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