500年後の世界
少女が起きるまで今の状況を確認する。
まず、魔王倒しました、石化されました、復活したら知らない女の子の庭にいました。
ふむ。わからん。
寝ている間は何が起こっているのかわからないみたいな、そんな感じだったのだろう。
オークションで売られていたらしいし、相当な時間が経っていると考えていい。
「んぅ…………」
少女が小さく声を漏らした。そろそろ起きるだろう。
いくら考えても分からなかったが、まあこの少女に聞けばいい話だ。
「おお。起きたか」
「ひぇぇ!」
「待って無限ループしないで! 落ち着いて、深呼吸して!」
「ひっひっふー…………ふぅ、落ち着きました」
「うん。なんか違うけどまあいいや」
落ち着いたのならばそれでいい。とにかく、今はこの状況を把握しなければ。
「君、名前は?」
「フォ、フォトです。あの、本当に本物の勇者様なのですか……?」
フォトというのか。じゃあ次からフォトって呼ぼうかな。
年下だし、女の子だし。フォトちゃんはなんか恥ずかしいし。
「フォトね。俺は本物の勇者で間違いないよ」
「それならばなぜ、石像になっていたのですか? 私が知っている伝説ですと、魔王を倒し無事帰還したと記されていたのですが……」
「事実と違うな……俺は魔王と相打ちで終わったんだ。いや、今は生きてるから俺の勝ちか? まあとにかく、魔王に石化させられたんだよ俺は。王国にも帰ってない」
「そんな……」
「大方、俺以外の誰かを勇者にして帰還したと嘘をついたんだろ。別に気にしてねーけど」
勇者が帰還したと嘘をついたのは他の国への抑止力のためだろうか。それとも、民を安心させるためか。
両方かもしれないが、あの王様なら前者の方だろう。表向きは民を安心させるためで、本当は抑止力のため。あー人間ってなんて愚か。
「色々聞きたいことはあるんだけど……とりあえずここはどこなんだ? 魔界、じゃないよな」
「に、人間界のプレクストンという街です。ご存知ですよね?」
「はぁ!? ここがプレクストンだって!?」
プレクストンとは、俺の生まれ故郷であり、勇者としての旅が始まった場所だ。もちろん魔王を倒してこいと命令してきた王様がいるのもこの街だ。
なので街並みなどはなんとなくは覚えているのだが、明らかに俺の知っているプレクストンと違う。
「落ち着こう、一旦落ち着こう。時間が経てば街も変わるよな。じゃあ、俺が魔王を倒したのは何年前なんだ?」
「500年前です」
「ごっ!?」
500年!? 500年って言ったらそれは……500年前だよな。ダメだ頭こんがらがってるよ。
つまり……ここは500年後の世界で、俺は石化してたから当時のまま500年後の世界に来てしまったと、そういうわけだな?
はぁー……いや、理解はできるんだけども、どうすればいいのか分からないんだよね。死ぬよりかは生きてるほうがいいんだけどさ。自殺とか俺の勇者としてのプライドが許さないし。
「勇者様は……その、これからどうなさるおつもりなのですか?」
「どうするってなぁ、やることなんてないし、どっかで適当に生活するよ」
もちろん魔王が現れたら会いに行くけども、それ以外にやることが見つからないし。
ああそうだ、色々な街に行ってどう変わったのか見てみたい気もするな。そのくらいだ。
「で、では……わたしを強くしていただけないでしょうかっ!」
「フォトを?」
「は、はい! わたし実は、勇者様の伝説に憧れてこの街まで来て、冒険者をしているんですっ」
「俺に? そっか、だから名前知ってたのか」
500年前でも俺の本名なんか知れ渡ってなかったんだし、当然だな。というか憧れてたとしても知ってる方が珍しいまである。
フォトを強く、ね。俺は弟子を取ったことがないし、誰かに剣術を教えたこともないので強くできるかは分からない。俺は本来この時代にいない存在だ、無駄に関わるのは良くない。
だが、フォトは石像になっていた俺を結果的に保護したことになるのだ。言うなれば命の恩人、もしかしたら、石化が解ける前に魔物や魔族に破壊されていたかもしれない。
「分かった。引き受ける」
どうせやることもない。フォトへの恩を返すために、修行に付き合おうではないか。
多少勇者という概念に心酔しすぎているような気がしないでもないが、それはそれ。俺の成し遂げた勇者としての伝説を認めてくれていると考えれば悪いものではない。
「や……った!」
「え、どしたの。大丈夫?」
「気が抜けちゃいました……えへへ」
可愛い、可愛いぞこの子。しかしフォトはまだ子供。いけない、そういうのはいけない。
石化していた期間を無視したとして俺はまだ21歳くらい。だが、フォトからしたら俺は500年前の英雄だ。元勇者だが、フォトの前では勇者らしく振る舞わなくては。
「よ、よし。明日、空いてる時間にここに来るよ。あ、そうだ。宿屋ってどこにあるの?」
「え、宿屋に行くんですか……? わたしの家に住めばいいじゃないですか」
「いや、流石にそれは……ほら、な?」
「むむむ?」
フォトは顎に手を当てて首をかしげる。本当に分かっていないのか……?
それとも、俺を男だと見ていないとか? それはまずいな、もしも俺がイケイケな女の子大好き人間だったら襲われてるし、俺のメンタルが弱かったら泣いてた。危ない。
「宿屋に泊まるとして、お金はあるんですか?」
「一応これならある」
腰の袋からお金を取り出す。ミスリル貨を数枚。
「これ……500年前のお金ですか? 使えませんよ!」
「ですよねー。はぁ、仕方ない。野宿に……」
「わたしの家に! 泊まりましょうっ!」
食い気味にフォトは自宅に宿泊することを勧めてくる。すごいニコニコしてる。
しかしここは勇者として引いてはいけない。倉庫スキルにはある程度の食料が入っているので火炎系のスキルを使えば料理もできる。勇者が健気な少女と同じ屋根の下で一夜を過ごすなんて、そんなことあっていいはずがない。しっかり断るんだ。
「…………悪いけど」
「やっぱり、わたしと一緒じゃ嫌……ですよね」
「泊まるわ。うん」
「ほ、本当ですか? やったぁ!」
流石に女の子を悲しませるなんてできないでしょ。ずるいよ。
向こうはそんなことは考えていないと分かっていても、そういう経験の無い俺にはこの空間は刺激が強い。俺は年上として平静を装いながら勇者に会えて興奮気味に話をしてくれるフォトに接するのだった。
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