友との出会い

 宿屋も見つけ住む場所を確保し、さあ冒険者ポイントを稼ぐぞと後日ギルドに向かった。

 ギルドの入口、扉を開けると目の前に依頼書を持っているフォトが立っていた。一瞬何か言いたげな顔をしていたが、俺が小さく頷くとフォトも小さく頷き、お互いに頑張ろうと会話をせずに伝えすれ違った。


「さーて、依頼探すか」


 フォトが心配だが、あの子は強い子だ。血まみれになって帰ってきたあの日、それは把握したはずだ。

 それに、簡単に達成できない依頼ならば受けないだろうし、受けたとしても他の人と一緒にやるだろう。


 なんて考えながら掲示板を見ていると、なかなかよさそうな依頼を見つけた。湖に現れたポイズンフロッグによる水質汚染に困っています、十匹討伐してください。対象はシルバーランク以上です。よし、これにしよう。

 依頼書に手を伸ばそうとしたその時、別の誰かの手と重なってしまった。ドキッとしつつやっちまったと顔を確認する。男だった、なんだよ一気に萎えたわ。


「おっ」

「んん?」


 向こうもこちらを見てくる、一瞬いやそうな顔をしていたが、俺の顔を見た瞬間に顔が変わった。

 赤黒い短い髪で、武器は槍。若い冒険者だ。俺と歳は変わらないかな。


「あんた、昨日の人だよな! おっさんが騒いでてさ。すごかったなあれ、あの水の奴ってなに?」

「いや、あれは俺も知らん」


 どうやら昨日の騒ぎを知っているようだ。それなら確かに俺のことを知っててもおかしくない。


「ちぇっ、なんだつまんないの。それでさ、この依頼受けたいんだよな?」

「まあ、取ろうとしてたからな」

「ならさ、一緒にやろうぜ? 日帰りでどうにかなりそうだし、移動長居し暇そうだしさ。ぶっちゃけ話し相手が欲しいんだよね」


 一緒に、か。それだとまた周りから何か……いや、男同士だし、シルバーランク以上ってことはこいつもそれなりに戦えるだろうし、ズルして依頼を達成しているとは思われないか。そんなこと言ったら仲間なんて作れないもんな。

 それに、一人で依頼を受けるのはこいつの言う通り暇なのだ。前までの俺なら一人でも何も感じなかったんだけどな……俺もフォトに依存してるな。


「あー、そうだな。うん。組もう。俺はキールだ。お前は?」

「リュート。シルバーランクだ。気軽にリューちゃんって呼んでくれよなっ」

「分かった。んじゃ早速行くぞリュート」

「うええ、スルーかよ……」


 受付さんに依頼書を渡し、依頼を受ける。後はポイズンフロッグを倒して帰ってくるだけだ。


「西の湖ですか、でしたらポイズンフロッグの回収は湖畔の村にいるギルドメンバーに頼んでくださいね」

「ああ、魔物の回収ってギルドメンバーがやってるんすね」


 知らなかった。そういえばマキシムとミニムが住んでた場所にハンターベアを回収しに来たのもギルドの人間だったか。てっきりギルド職員に回収班がいるのかと思ってた。


「ええ、それを仕事にしている人もいますから」

「なるほど」


 それを仕事として冒険者に任せることで余計な人員を割かないようにしているのか。

 俺もそれやってみようかな、運ぶだけでしょ? 余裕じゃん。


「あれ、相当力に自信が無いとできないよ。その代わりに報酬はいいらしいから、身体がでっかい奴はそれで稼いでるらしいけど」

「詳しいな、シルバーランクなのに」

「最近親に許されて冒険者になったばっかなんだよ……地道に依頼を受けるにしても、時間かかりまくるし」

「そんなもんか」


 フォトは……14歳で冒険者になってる。俺と歳が大して変わらないリュートが最近許されたということは親はかなり厳しい人なんだろうな。それかフォトの親が緩いのか。

 そんな会話をしている暇はない、今出発しないと帰ってくる頃には暗くなってしまうだろう。

 会ったばかりなので知らないことも多いが、それは移動中に聞けばいい。そう思い俺とリュートはさっさと馬車に乗り込むのだった。


* * *


 西の湖に近づくにつれて辺りの雰囲気も変わってくる。木が多くなり、坂も増えた。ちょっとした山登りだ。


「そういえば、昨日の女の子ってどうしたのさ」


 ボーっと空を眺めていると、突然リュートがそんなことを聞いてきた。

 フォトも、今頃移動してんのかな。


「フォトはまあ、なんだ。色々あったんだよ」

「色々って?」

「……昨日な――――――」


 今日初めて会った相手だが、吐き出したい気持ちが勝ってしまう。ヴァリサさんの時といい、会ったばかりの人に話しすぎかな。


「なるほどね。確かに一旦離れるのはいいかもしれないな」

「俺はフォトが成長してくれればそれでいいんだけどなぁ。俺は俺でやることがなくて困ってたんだ。とりあえずゴールドランクにならなきゃいけないから依頼受けてるけど」

「話聞いてて思ったんだけど、キールって何者なのさ」

「旅してて最近プレクストンに住むことになった剣士」


 今回はレスポンスが早かった。前は少し考えこんでしまって怪しまれたからな。設定をはっきりさせといてよかったぜ。


「はい嘘。僕に嘘は通じないよ。小さい頃からへーきで嘘つく奴らが周りにわんさかいたからそういうの分かるんだよね、僕」


 マジかよ、それを聞いたらリュートが何者なのか知りたくなったぞ。親がちょっと悪い奴だったとか? そうだったら本人も気にしてそうだな……うん、人の詮索をするのは良くないな。


「……確かに嘘をついてた。悪いな。だが俺のことは今は話せない」

「分かった、それならそれでいいよ。いつか話してよね」

「次もあるのかよ……」

「誰も組んでくれないんだよぉ!!! そんなに筋肉質の男がいいか女どもぉ!!??」


 どうやら仲間を探して手あたり次第に話しかけていたらしい。女に。

 しかしこいつ顔は悪くないのになんで誰もついてこなかったんだろうな。

 あ、分かった。戦う女性はリュートの言うように筋肉質な男が好みなのかもしれない。なんか子供っぽいしなこいつ。あ、それ俺にも当てはまるわ。泣きそう。


「女にばかり話しかけてるからじゃね? てかそんなに女がいいならなんで俺を誘ったんだよ」

「いや、もう男でもいいかなって」

「気持ちは嬉しいけど丁寧にお断りさせていただきます」

「なんでだよ告白してねぇよ!!」


 確かにリュートの言うようにいい暇つぶしになる。こいつの口ぶりからして、ポイズンフロッグは一人でも余裕で倒せるのだろう。こいつといればしばらくは退屈しないで済みそうだ。

 ふと景色を眺めると、遠くに湖が見えた。もうすぐ到着だ。

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