力を合わせて
剣がぶつかり、金属音が鳴り響く。一進一退の攻防が繰り広げられている。
何度か剣がキレーネの身体に触れ、怪我を負わせることがあった。しかしそれもすぐに回復してしまう。そしてこちらも何度か攻撃を受けてしまい、怪我を負うことがあった。それも、こちらの回復スキルにより自動で回復されてしまう。
予想通りどちらも勝たない、負けない。このままではゴーレムの準備が整いこちらが不利になってしまう。
大技を仕掛けようかと思った次の瞬間、赤い光が視界の端に見えた。
「インフェルノ! ブレスだ!」
ゴオオオオオオッと轟音が鼓膜を揺らす。空から降り注いだ灼熱の炎がキレーネを襲った。ダメージは入らなかったが、焦りからか取り囲んでいた竜巻が消滅する。
リュート参戦、ディオネはもういいのだろうか。そう思い周りを見渡すと、二体の竜はディオネの元で戦っているようだ。そして三体の竜がゴーレムの周りで旋回している。ブレスの準備はできてるな。
「ッ! 竜使い……!」
「おっ、いいねその呼び方。かっこいいじゃん」
こんな時にこいつは……
とにかく、人数が増えたので戦い方も変わる。人数を減らせば戦いやすいかとも思われたが、結局決定打がないまま時間が進んでしまっていたので助かった。
「オォ、リュート。やるじゃねェか」
「まあね」
炎コンビか。黒い炎と火竜の炎。どちらも強力だが。決定力に欠ける。
空中でリュートとキレーネが戦った時はブレス三本で瞬間移動を破ったらしいが、今はそんな余裕はないし、前回の反省を活かして同じ状況を作っても避けられてしまうだろう。
「ディオネはどうした?」
「いやぁ、あれ無理だね。硬いって」
まあそれは分かる。遠目からだが、ディオネの姿は先程戦ったあの姿とは違っていた。おそらく、俺たちと同じように何かしらのエクストラスキルを発動させているのだ。
ただでさえ硬いあの土魔法が強化されているのだから、ただの攻撃では歯が立たないだろう。
「フォボス、少し頼めるか」
「あン? 任せとけッ!」
俺の言葉に、フォボスは黒く変色した魔剣フランベルジュでキレーネの攻撃を受けながらそう言った。
少しの間だが、フォボスが時間を稼いでくれる。
「よし。リュート、インフェルノ、ちょっと聞け」
「ム? ワタシモカ」
「なにさ」
どうせ説明するなら一度にした方がいいだろう。一度リュートに伝えて、そこからインフェルノが聞くんじゃ二度手間だ。
これは俺一人ではできない技だ。ある程度時間を稼いでもらう必要がある。
「お前ら、あれあったろ? 炎の壁、作れるか?」
炎の渦を作り、中に閉じ込めるという技があったはずだ。
「『インフェルノウォール』か? あれじゃあ流石に壊されちゃうでしょ」
「ウム、『インフェルノウォール』ハアノキレーネニハ効カヌ」
ああそれそれ、『インフェルノウォール』な。相手を閉じ込めて焼くスキル。
強力なスキルだが、ある程度の実力のある相手には効かない。強い魔力で破壊されてしまう。
「あーそうじゃなくてな。
「はあ? どういうことだよそりゃ」
「まず、その壁ができたと仮定する。そしたらキレーネはこう思う。これを利用して戦おうと。相手が一か所に集まるんだから当然だ」
俺がキレーネならそうする。わざわざ行動範囲を狭めているのだから、外から見れば自殺行為だ。
その気持ちを利用する。あいつは俺たちを馬鹿にしているからな。煽りも込めて、炎の中で戦おうとするだろう。
「狭いから多分空中戦になる。交代しながら戦って、俺は途中で離脱する。リュートとフォボスは飛びながら。インフェルノはブレスで援護しながら戦う。んで、下でチャージを進めていた俺は一気にスキルを放出する」
「なるほど。でもそれ僕ら巻き込まれない?」
「頑張って避けてくれ」
「酷い! でもまあ、地上付近に引き付ければ避けられるか」
急降下しながら避ければどうにかなるだろう。
俺一人バージョンも考えたが、どうにも上手くいきそうにないしな。
「それはいいんだけどさ、そんな広範囲囲えないでしょ」
「問題ないさ。ほら」
遠くを見る。サラマンダーが走っている。
こちらに近づくまでまだ少しあるが、あのサラマンダーがここに来てくれればリュートの『インフェルノウォール』の効果範囲を広げることは容易だろう。
「ああ、なるほどね」
それに気づいたのか、リュートもサラマンダーを見て小さく笑う。
作戦の確実性は高まった。ならば、後はそれを実践するだけのこと。
一度フォボスとリュートが交代し、フォボスにも簡単に説明する。
「ってわけだけど。いけるか?」
「まあな。っつーかオレ様があのインフェルノと共闘か。おかしな話だなァ」
おかしな話か。確かにそうだ。
フォボスは五年前、クリム火山の火口でインフェルノを呼び出し洗脳した。そして自らの戦力として加えようとしたのだ。
そんなフォボスが、五年後の今俺たちの味方になってインフェルノと協力する。昔なら信じられないな。
「確かにな。前回は洗脳して利用しようとしてたが、今回は正式に利用するんだ。楽しめよ」
「そうだな。せいぜい楽しませてもらうぜ」
フォボスがこちらと敵対する意味はないので、現時点で裏切りはないだろう。そもそも、フォボス自身もこちらの戦力を理解しているので戦おうとしない。
だからこそ信頼できる。これから先、この戦いが終わっても重要な人物だからな。
「そろそろか」
サラマンダーの効果範囲に、もうすぐ入る。そのタイミングでリュートには『インフェルノウォール』を発動してもらう。
そこからが勝負だ。キレーネが外に出ようとしたらそれでおしまいだし、別の倒し方を考えるしかない。
方法はいくらでもある、能力的には負けることはないだろう。あのゴーレムさえいなければ。
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