戦闘!キレーネ


 ゴーレムの足元付近に向かう。が、到達するよりも前に前方にいたサポートメンバーが戦闘をしているのが見えた。

 戦闘対象は、風魔法使いと土魔法使い。キレーネとディオネだ。やはり阻止しに来たか。


「っらあ!!!」

「……ッ! またあんた?」


 全力で走りながら、フォボスの攻撃を避けたキレーネに剣を向ける。が、それも避けられてしまった。

 だがなかなかに惜しかった。瞬間移動も連続では使えない。限りなく小さな隙だが、そこを突くしかない。


「よお、これはタイタンのゴーレムってとこか?」


 一応本人に確認しておく。十中八九タイタンの魔力を利用して維持しているのだろうが、一応な。俺の記憶だと魔界にこんな兵器はなかったはずだ。あってもこの大きさは異常すぎる。


「まあね、流石勇者じゃん。これが動いたらあの街はもう終わり。大人しく逃げたら?」

「勝機がなかったらそうしてるさ」


 風のような速さの剣を避け、斬撃を繰り出す。瞬間移動で避けられ、また剣が飛んでくる。

 緑と黒と白の光が入り乱れ、お互い一歩も譲らない戦闘が繰り広げられる。


「へぇ、勝つつもりでいるんだ」

「そりゃもちろん」


 空中で戦闘をした時と同じように、お互いにダメージが入らない。余裕もあるためか、なんとか戦いながら会話ができてしまう。


「……シュッ!」

「邪魔!」


 時折フォボスたちが横から攻撃を仕掛けるが、それも瞬間移動により避けられてしまう。

 しかしその隙を突いて俺が放ったスキル『ソニックグラディウス』により、瞬間移動が使えなくなったキレーネの身体に剣が触れる。

 キレーネの元の速さもあってか、重症には至らなかった。しかし、腹部からはじわりと血が滲み出す。

 それに気づいたキレーネは、俺たちから距離を取りギロリと睨みつけてきた。同時に巨大な風がキレーネの目の前に渦巻く。


「……コロス」

「やってみな」


 風を掻き分けキレーネに近づく。が、その風は予想以上に威力があり思わず体勢を崩してしまった。

 すかさずキレーネの剣が襲う。魔力を一気に放出し瞬間的に避けようとするが、二の腕付近を斬られてしまった。

 血が飛び散り痛みに顔が歪む。キレーネは続けて攻撃を加えようと突撃してくるが、フレンとフォトが飛び込んできたことにより阻止される。


「貴方が魔王候補ですわね? 今ここで倒しますわ」


 剣を構え威圧するフレン。おお、勇者っぽい。俺もあんな感じのことやりたい。

 しかし俺には似合わないだろう。後でリュート辺りに鼻で笑われてお終いだ。俺よりもフレンの方が勇者っぽさあるかもしれないな。

 対するキレーネはポカンとした表情でフレンを見た後、腹を抱えて笑い始めた。……どういうつもりだ。


「あーおもしろっ! あっはっは、誰かと思えば勇者モドキじゃーん。自分を勇者の子孫だと思い込んでるだけだから危険視してなかったんだよねー」

「……っ」


 横腹を斬られた怒りも忘れて、キレーネはフレンを笑い飛ばした。血は止まっているらしく、短時間のうちに治療が完了したことが伺える。

 勇者の子孫がいる、という情報は魔王候補に元々あった。それはフォボスから聞いたことで、初対面で俺を勇者の子孫と勘違いした原因はそれにある。


「なぜ、それを……」


 魔王候補は人間界に転移できるため、この五年で情報収集もできただろう。

 魔族の高度な魔力感知技術があれば俺が本物の勇者であること、フレンが血縁関係であることなどを調べることができる。

 そうやって知ったのだろう。魔界側は人間界に簡単に来れるからな。

 全く、ろくなことをしない。フレンを煽り倒すキレーネに怒りを覚えつつ、睨みつける。


「キレーネ!」

「なぁに怒ってんだか。偽物に興味はないし、さっさと……死んで!」


 再び風を強めながら、キレーネは攻撃を仕掛けてくる。


「フレンさん! 来ます!」

「っ! ええ、すみません。やりましょう!」


 キレーネの煽り……煽りとも思っていないかもしれない挑発により、フレンは明らかに気落ちしてしまった。

 一度は収まった勇者の子孫ではないという気持ちが、再びこみ上げてきているのだ。

 ただでさえ戦闘に影響が出ると思っていたのに、それが刺激されてしまうなんて。このままではいけない、まともに戦闘に集中できないだろう。


「おっしゃー! 死ねやああああああ!!」


 簡単に隙を作ってしまったフレンに斬りかかるキレーネ。

 それを見た俺は全力で地面を蹴り、『神速』でキレーネとフレンの間を目指す。


「フレン! 代われ!」


 声を掛けながら薄緑色の細剣に重い一撃を加える。その勢いに弾き飛ばされたキレーネは、舌打ちをしながら再びこちらに剣を向けてくる。

 フレンは大人しく俺の指示に従い、サポートに徹する。

 人数が多ければ有利になるというわけではない。むしろ相手の思い切りがよくなり、攻撃が積極的になることがある。


 キレーネの場合、これに該当する。

 空中で戦闘を行った時は出していなかった竜巻に、広範囲の風魔法。戦術も変わってくるので対処の仕方も当然変わってくる。

 どうせなら思いっきり攻めてみようか。ゴーレムの完成も近いし、一発デカいの当てたい。


「フォト、フレン。二人はゴーレムの観察をしててくれ」

「え、でもキールさんは……」


 不安そうな顔でこちらを見てくるフォト。おいおい、傷つくぞ。


「俺が負けるかよ」


 口元を少しニヤリとさせつつ、顎で早く行くように指示する。


「……ですね。フレンさん、行きましょう!」

「わ、わかりましたわ」


 まだショックが残っているのか、フレンはフォトに連れ去られるようにその場を去った。

 二人がいなくなり、付近にはフォボスだけとなる。遠くに見える土埃の奥に複数人の影が見えるが、あれはディオネとの戦闘だろうか。


「さ、続きしようか」


 二本の剣を構えながら、キレーネを見据える。

 まだ、まだ足りない。このままではキレーネを倒すことができない。

 しかしこちらも負ける気はしない。外した時の危険度を無視してでも、一気に大技で攻めようか。

 近くにはフォボスもいる。もし大技を外してもフォローはしてくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る