プレクストンの勇者像
スキル修練を始めてから数時間が経過した。フォトは覚えるのが早く、スキルを使った時のようにうっすらと残像が見えるようになった。
『神速』はスキルなので、完成度が低くそこまで速くなくても残像は見えるのだ。つまり、完成度の低い『神速』にはなっているということ。
「グギャァ」
「ど、どうでしたか……?」
ヨロイトカゲの首に剣を深く突き刺したフォトがそう言う。簡単だが長い依頼だった。
「まだ完成はしてないけど、スキルの土台はできてるよ。なんとなくわかるでしょ? 一定時間ありえないスピードが出てるの」
「はい、なんだか自分で走ってないみたいで不思議な感じです。そういえば、走った後に一瞬上手く動けなくなるのですがこれはなんなのでしょう?」
「スキル後の硬直時間だ。強い技を使えば使うほど硬直時間は長くなるから気を付けるように」
スキルには硬直時間がある。大技を放てば数秒動けなくなるので、見極めて使う必要がある。
仕留めようとしてスキルを使い、倒せなかった場合ノーガードで反撃を食らってしまうのだ。デメリットも大きい。
さらに、『隠密』や『索敵』のようなスキルを使いながら技のスキルを使うと通常よりもスキルの硬直時間が長くなったりする。良いことだらけではないのだ。
魔法の場合は使う魔力が大きいため魔力切れになったり、集中力が切れやすくなったりというデメリットがある。魔法で索敵ができればもっと楽になるのかな? 魔法を使うつもりはないけど、スキルと魔法を合わせた戦い方ができたらきっと最強なんだろうな。
「疲れたろ? そろそろ終わりにして報告しようぜ。金も手に入ったし適当に街を歩きたい」
「そ、そうですね。えっと、荷台を持ってきたんでしたっけ」
「おうよ、このくらいの魔物なら自分で運べるからな」
昨日はハンターベアの回収をギルドに任せていたため討伐報酬を受け取るまで時間がかかっていたが、直にギルドに運べば討伐報酬を受け取ることができる。
これで報酬を受け取り、手に入れたお金で街を観光だ。懐かしのあの店はあるのだろうか。
そんな淡い期待を抱きつつ、俺は荷台をロープで引きながらギルドに向かうのだった。
* * *
ギルドにヨロイトカゲを預け、報酬金を受け取る。
魔物や魔獣を倒してこいという依頼は依頼主が報酬金をギルドに預けているのでわざわざ依頼主のところまで行く必要が無いのだ。
「おお、あんなに簡単だったのにこんなに貰えるのか。さすがブロンズランク」
ヨロイトカゲ5匹を倒す依頼、その報酬は実に20000G。
魔物を倒す依頼なだけあって報酬金は多い。一般人では危険すぎて受けられない依頼なのだろう。
「毎日これだけやってれば普通に生活できるぞ……」
「まあ普通の人は命のやり取りなんてしないですからね」
俺の時代なんて仕事を探すだけでやっとだったのに、そこらの魔物倒せるだけで生活できるようになってるなんて。いいことなんだろうけど、なんつーかな、もやもやする。
「おっ、そうだ。広場があるんだろ? 行ってみようぜ」
「あ……その、広場は……」
俺が広場に行こうと言うと、フォトは暗い顔をしてしまった。
嫌がっているのか、いや、でも広場だろ? そこに行きたくないってのはおかしくないだろうか。誰か嫌いな奴がいるとかならわかるけど。
「なんだ、行きたくないのか?」
「いえ、そういうわけでは……行きましょうか」
「……? おう」
結局何だったのだろうと思いつつ、広場に向かう。
プレクストン大通りの中心にある広場、俺の時代も広場はあったな。噴水とかがあるんだよ、ああいうところは。
「ここです」
「ほお……んんっ!?!?」
人の多さに気を取られていたが、広場の中心には大きな像が設置されていた。
その像は剣を持っていて、革のベルトに魔獣のレザーコート。俺の今の服装と同じであった。
まさか、まさかな。
「勇者様の像です」
「ふぁーーー!?」
よくわからない反応をしてしまった。どう反応していいかわからないこれ。だって別人だもの。
明らかに別人。美化されてるとかじゃなく、別人なのだ。俺の方がイケメンだ。俺の方がイケメンだから。多分、俺の方が。
「だから行きたくなかったんです。ショックを受けてしまうんじゃないかと……」
「いや全然ショックはないよ」
「本当ですか!?」
「うん。驚いてるだけ。だって驚くでしょ、500年後に街に飾られてたら」
しかも別人なんだから。
しかしこれは誰だ。俺の覚えてる限り兵士にこんな顔の奴はいなかったぞ。あまり関りの無かった騎士か? それとも勝手に想像で作られたとか?
「確かに……勇者様は帰還していないから称えられたことすら知らなかったんですよね……」
「その現実を突きつけられるのはショックだからやめていただきたい」
天然か、天然なのかこの子は。
称えられたくて魔王を倒したわけじゃないけども、本人が誰にも褒められずに役目を終えたという現実はとても深く突き刺さる。いたたたた。胸が痛い。
「す、すみません……」
「よ、よし。なんか買って食べようか。あ、ほらあれ。アイスクリームだってよ! ……アイスクリームってなに?」
落ち込んだフォトを勢いで慰めようと屋台に注意をそらすが、アイスクリーム? という聞いたことのない食べ物をなぜか紹介してしまい困惑する俺。
「牛のミルクを氷魔法で凍らせたお菓子ですね」
「ほお、凍らせるのか。確かに氷って冷たくておいしーもんな」
誰でも氷魔法を使えるようになったことで普及したお菓子か。食文化も変わってきてるよな、フォトの作ってくれた料理、知らない味ばっかりだったし。あ、もちろん美味しかったよ。
「んじゃ買うか。すんませーん、二つくださーい」
「あいよっ! って、えええええ!?」
振り返った店員は、昨日ハンターベアに襲われていた荒くれものだった。いかついひげ面のおっさんが、笑顔でお菓子を売っていた。これもどう反応するのが正解かわからない。
「何してんだよ……」
「なにって、依頼に決まってんだろ。オレらもギルドに入ったからな!」
ドヤ顔でギルドカードを見せてくる荒くれもの。ふむ、やはり冒険者ギルドか。まあ当然だな。
んでだ。オレら、ってことは……
「アニキ、何してるでやんすか? ってえええええ!?」
案の定。感想? んなもんねーよ。
「お二人とも行動力がすごいです!」
「んー、あーその、なんだ。昨日どうするか迷ってたらギルドの連中がハンターベアを運びに来てな、急いで街まで逃げてきたんだ」
「まあ普通あんなところに住んでたら色々聞かれるわな」
崖の洞穴をちょっと改造した住処。それを無視できる冒険者がいるだろうか。
というか魔獣の回収って冒険者の役目なの? それとも冒険者協会かな? どっちでもいいか、どっちでもいいね。
「魔法が使えるのか」
でかい方の荒くれものは氷魔法を使いながらミルクを混ぜ始めた。
氷魔法で作るんだから当然なのだが、この荒くれものでも使える魔法を俺は使えないというのは何て言うか負けた気分だ。
「ああ? このくらいなら誰でもできるだろ。むしろ苦手な方だ」
「へー。冒険者としての方針は決まったのか?」
「戦えなくても仕事はたくさんあるからな。まずはノーマルランクでもできる簡単な手伝いから始めてみた」
「それで屋台の手伝いか」
こいつらもこいつらなりに考えて行動している。俺は……フォトにスキルを教えているな。だがそれもいつまで続くか。フォトが強くなったとして、勇者のように、という願いは叶うのだろうか。
考えても仕方がない、今できることをするだけだ。
500年前には普及していなかった魔法を見ながら、アイスクリームができるのを待つのだった。
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