圧倒と再会


 髪は白く染まり、右半身の肌には紋様が浮かび上がる。

 黒いオーラが身を包み、身体の周りを漂い続ける。

 先程まで向けられていた敵意はどこへやら、キレーネは驚いた顔でこちらを見つめる。


「なによ、それ」

「お前も使ったんだから知ってるだろ? 『魔王化』、魔王という概念を纏った姿だ」


 『魔王化』それは魔王、魔族の王、魔族の頂点に位置する存在になること。

 それに到達した時、この力が使えるようになるのだろう。俺が戦った魔王もこの力を保有していた。


「知ってるけど、どうしてあんたがそれを……!」

「俺には魔王の魔力が流れてんだ。使えてもおかしくないだろ?」

「……ッ」


 この力に気付いたのは三年ほど前だった。

 『石化』を使いこなせるように修行をしているとき、ふと魔王の魔力を制御しようとしたことがあった。

 そうしたら、突然身体が魔王の魔力に支配されそうになった。俺は慌てて力を抑え込んだ。

 その後も何度か使いこなせるように修行をした。結果的に何とか『魔王化』に成功する。

 しかし、俺はこの力を使いたくなかった。心の底から魔王になってしまうようで、人間ではなくなってしまう気がして。


「こうなった以上俺も人間に収まらなくなる。それを恐れて使ってこなかったんだが……」

「は、はははっ! いいじゃん、あんたを倒して、あたしが本物の魔王になってやる!」


 キレーネが走りながら斬りかかる。

 俺はそれを二刀で受け止め、弾き返す。こちらからは攻めず、まずキレーネの剣をひたすらに受ける。

 何度も斬りつけられるが、キレーネの剣が俺の身体に届くことはなかった。


「くそっ! くそっ!」

「……」


 全ての攻撃を見切る。

 俺と同じように、キレーネも『魔王化』を使いこなせるように修行をしていたのだろう。

 それでも、目の前のキレーネは疲弊している。『魔王化』は、相応しい力を持っている者が使いこなすことができる。それこそ、魔王を継承した者のように。

 キレーネは、魔王の力を借りているに過ぎない。だから、100パーセントの力を出せないのだろう。魔王には、まだ到達していないのだ。

 しかし俺は到達してしまった。魔王から直接魔力を入れられたからだろう。苦労こそしたが、100パーセントの力を出すことに成功した。してしまった。


「なんで……なんでよ! 同じ力を使っているのに、どうして!」

「今度はこっちから行くぞ」


 剣を鞘に収め、黒いオーラを両手両足に移動させる。

 そして、直接殴りながらキレーネを攻めた。


「ふっはっ! ……ぐっ!」


 最初こそ防いでいたが、魔力による余波による効果か、次第に受け止めきれずに押され始める。

 そしてこの弱ったタイミングで、一気に決着を付ける。


「――決着を付けよう」


 俺が『魔王化』を使いたがらなかった理由は二つある。

 一つは人から外れてしまうこと。当然、恐れられる。もう、普通の扱いはされないだろう。

 そしてもう一つは……


「『ダークネスインパクト』」


 強くなりすぎてしまうこと。


「かはッ!?」


 魔王の魔力により創り出された衝撃が、キレーネの身体ごと吹き飛ばした。

 遠くまで吹き飛ばされたキレーネは、空中で何かに背中を強打した。確かこの辺りには……タイタンゴーレムの残骸が落ちていたか。


 俺は守るために力を欲した。

 力でねじ伏せるために求めたわけじゃない。

 だから、この力を振りかざすのは嫌なんだ。使うのなら、真っ当な使い方をする。元の目的である、誰かを守るために。


「が、あ……このくらい……!」

「『ダークネスバインド』」


 キレーネに向けて、俺は『ダークネスバインド』を放つ。

 巨大な魔力の手が、立ち上がろうとしたキレーネの身体を押さえつける。


「……終わりだな」


 キレーネの息の根を止めるため、俺は剣を抜く。

 勇者としての最後の仕事だ。暗黒剣ではなく、月光剣を手に取る。


「ごめん、ディオネ……」


 キレーネは絶望しながらも、小さくそう呟く。

 終わったら、ディオネにその言葉を伝えるくらいはしてやるか。

 心臓を狙って剣を突く。が、その剣はキレーネの心臓を穿つ直前に弾かれる。


『少し待ってはくれないか』

「っ!? 誰だ!」


 声が聞こえた。同時に、気配を感じる。

 この気配はキレーネの物ではない。しかし、剣を弾いたのはキレーネの周りにあった黒いオーラだ。

 なら、声の正体は誰だ。戦場にいた者に心当たりはない。


『私だ。勇者よ、忘れてしまったか』

「あんたは……」


 キレーネのオーラと、“俺の”オーラが集まり何かの形を作る。

 人型、いや、角が生えている。魔族か。しかしこの形、そしてこの声。

 ああそうだ、間違いない。忘れるはずもない。


「――――魔王」

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