フォトの苦悩
キールに一人で依頼を受けると伝えたフォトは無制限の魔物討伐の依頼を受け、草原に向かった。
無制限の依頼は魔物を狩った数に応じて報酬が得られるというものだ。数匹倒して帰ってもいいし、日が暮れるまで狩り続けてもいい。だから気が済むまで戦える。自分の実力を理解するために。
今回選んだ依頼はプラントの駆除だ。時折農場の近くまで来て土の栄養を奪ってしまうのだとか。
「はー!」
うっすら光った剣がプラントの首に命中する。力を入れれば一撃で倒すことが出来る。
プラントは草原にいる植物の魔物だ。見た目は緑色の細長い植物。根っこのようなもので二足歩行をする。ツルで攻撃してくるが絡まれないように気をつければ簡単に倒せる。
「次!」
魔物が多く生息する場所に移動したフォトはひたすらプラントを斬っていた。
何度か複数匹が一気に襲ってきたこともあったが、その時は『神速』を使うことによって切り抜けられる。
「まだまだ!」
ツルを剣で受け、『スラッシュ』で切り裂きながら接近。そのままプラントの体を真っ二つにする。
辺りに散らばるプラントの死体。これだけの数を短時間で倒せる時点で実力はブロンズランクを既に超えているのだが、フォトはそれを知らない。
「っ、今のはもっと早くできた……強くならないと」
フォトは悩んでいた。勇者がいなくなったらどうすればいいのか。これからは出来ることは自分一人で全てこなさなければいけない。
ここ数日勇者に頼りっぱなしだったから、とにかく勇者の役に立てるように、迷惑をかけないように、強くならなければと思い続ける。
「……うわぁ!? や、やめてください! よっ!!!」
気を抜いてしまったのか、フォトの腕にツルが絡まる。魔力が少しずつ吸い取られる感覚。瞬時にツルを切断しプラントを倒す。
このプラントが複数匹いたら、ツルを切断している間に攻撃を受けてしまっていただろう。魔力が吸い取られている間は集中しづらいのだ。
「こんなんじゃ、勇者様と一緒にいる資格なんてない……」
戦闘面のミスが目立つ。長く戦闘すればするほど集中力も落ちていく。
だが、長い戦闘により辺りにはプラントが見えなくなっていた。魔力を回復する薬を飲み、集中力が維持できるように深呼吸をする。ギルドカードの魔力も十分に回復し、再び戦えるようになった。
「あ、あれって……」
そんな中、目の前の茂みからなんにかが出てくる。色が濃く、赤い花が咲いた巨大なプラントだ。
植物らしく地面から生えてきている。ツルの数も多い。
「ハードプラント……あれを倒せば……」
ハードプラント。プラントの上位に位置する魔物だ。
フォトはあのハードプラントを倒せば勇者に認めてもらえると思った。本来複数人で討伐する魔物だ。
「あのくらい一人で倒せなきゃ、ですよね」
勇者のそばにいるに値する人間になるために、自分に試練を課したのだ。
ハードプラントを倒したことで勇者に認められる確証はない。でも、今はそのくらいのチャレンジをするべきなのだ。
「くうっ……はあああああ!!」
周りのプラントは狩りつくしたので他のプラントに気を付ける必要はない。ただ目の前のハードプラントを倒す。
強靭なツルは簡単には切断できない。プラントと違ってとてつもなく硬いのだ。
『スラッシュ』で弾きながら近づく。隙をついて茎に剣を当てたが三分の一ほどまで刃が通るのみで、切断までは至らなかった。
「うう……硬い」
一旦離れると、剣で斬った部分が少しずつ修復されていく。短時間に何度も同じ場所を斬らなければ倒すことはできない。
「うりゃああああああああああ!!!」
『神速』を使い一気に距離を詰める。ツルを剣で弾きながら茎に攻撃。
未完成なスキルなので加速も安定しない。だが、この状況を打破するには十分すぎるスキルだ。
それを何度も繰り返す。同じ場所には何度か当たっただけで、茎には傷が複数個できていた。
「……! 今!」
全力で剣を振るう。数回斬られた茎にクリティカルヒット。剣が途中で止まることなくハードプラントの茎を切断した。『神速』を切り、背後で止まる。
ハードプラントの上部分は折れた、というよりも斬れたという方が正しいであろう落ち方をする。
ずしんと地面が軽く揺れ、フォトの力も抜ける。長い戦いが終わった。
「そうだ、知らせないと……」
フォトはギルドから渡された信号玉を使う。空に打ちあがり、高い位置で光りながら空中で停止する。
信号玉は上に投げると空高くに打ちあがり、光ってギルドにいる回収班に死体を回収してくれと知らせることができるのだ。
「あれ? 痛い……こんなに怪我してたんだ……」
右目の視界が赤くなったので手で拭ってみると、手に血がこびりついた。
それを認識したことによって痛みに気づく。頭だけじゃない、頬や腕などにも傷が付いていた。
「かえ、らなきゃ……はぁ、はぁ……」
疲れが一気に襲ってくる。歩くだけで精いっぱい。だけど、帰らなければいけない。勇者が、キールが待っているから。
街が近づくにつれて疲れが増していく。重い身体を引きづりながら歩き続けた。家までの道のりがやけに遠く感じる。キールの待つ家を目指し、フォトは歩いた。
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